質問で部下の「不快要因」を特定する!
いま部下は、どんなことにやる気があって、何が心の内で引っかかっているのか。不快要因を明らかにするために効果的なのが、質問です。
不快要因さえ取り除くことができれば、「あなたはどうしたいですか?」と聞き、「じゃあそうしたらいいよ」と奨励すれば、部下を快に接近させモチベーションを高めることにつながります。
不快要因の特定に役立つのは、気がかりなことや不安なことを尋ねる質問です。「なんでやらないの」というような、詰問に受け取られかねない問い方は逆効果。「この企画を自分で進めていくにあたって何か気がかりなことありますか?」「この一週間ぐらい取り組んでいくなかで、『ここで躓きそうだな』と思うことありますか?」などと聞いてみてください。
上司にとっては取るに足らないようなことが部下のボトルネックになっている場合は多いですから、意外と簡単に部下の自己調整学習の流れを改善できる可能性もあります。
困っているように見えるのに、「何か困っていることありますか?」と聞いても「ないです」と即答されてしまうこともあるでしょう。
その場合は、質問をひと工夫して「この前のプロジェクトを振り返って、『それ先に言ってよ』と思ったことは何かある?」と聞いてみてください。人間は、「いま何が大変か」よりも「あのとき何が大変だったか」のほうがうまく言語化できることがあるからです。
以上のような上司の質問によって、部下の自己調整学習を軌道に乗せ、主体的に動くように変わっていくことを支援できるのです。
成果よりプロセスに注目したフィードバックを与える
主体的に動き始めた部下が良い成果を出すようになったとき、上司は往々にして成果だけを評価しがちです。しかし、部下の主体性をさらに伸ばすためには、成果ではなく、「主体的に動いた」というプロセスを評価することが重要です。
例えば、部下が取引先との案件を継続させられるようになったとき、案件を継続させられること自体を褒めるのは得策ではありません。「継続案件数の目標達成、よくやった」という褒め方は、「次も成果を出さないと怒られる」というプレッシャーを部下に与え、せっかく芽が出た主体性を逆に削ぐ可能性があります。
大切なのは、案件継続につながった行動に着目して褒めること。例えば、「最近は取引先に対してこまめにメールもできるようになったし、必要だと自分で判断した場合はメールの前に電話も入れることができるようになった。だから継続案件が増えたんだね」といった調子です。あくまでもプロセスを評価対象とすることで、部下に、「あのとき主体的に動いて良かった。今後も自分から行動することで、もっと成果をあげられるはずだ」と感じさせることができます。
「自分の努力や試行錯誤次第で、自分はもっと成長できる」という心の持ちようを、米国スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック博士は、グロース・マインドセットと呼んでいます。反対に、「自分の才能や知能は遺伝や生得的なもので、自分が努力や試行錯誤をしても無駄だ」と感じることは、フィクスド・マインドセットと呼ばれます。
どちらのマインドセットを身につけるかは、私たちが受ける教育や指導に左右されます。「努力は無駄だ」という考え方を持つ子どもの保護者は、「100点ですごいね」「60点で残念だったね」と、子どもが達成した「成果」にフィードバックをしていたのに対して、「努力すれば成長できる」と考える子どもの保護者は、「前より点数上がったね、あんなに勉強してたもんね」と子どもの「学習プロセス」にフィードバックをしていたことをドゥエック博士は明らかにしています。
上司と部下の関係も、親と子の関係と同じです。マネジメントとは、部下の「自分は成長できる」という考え方を養うこと。力量が足りないチームリーダーは、「1on1で相談されたら1on1で解消する」というように、部下の育成を「点」で捉えがちです。
しかし、マネジメントは「線」です。プロセス重視のフィードバックを継続することが、自分から動く部下を育てることにつながります。
出典・参考元=ジョン・デューイ(1938)『経験と教育』講談社(邦訳、2004)、キャロル・S・ドゥエック(2007)『マインドセット「やればできる!」の研究』草思社(邦訳、2016)