導入義務化についていけず、閉院したクリニックも
医院向けにカードリーダーや電子カルテなどのデジタル機器の設置を行っている業者によると「マイナ保険証の導入義務化についていけず、閉院したクリニックもある」という。導入の負担は、医療機関によっても違いがあるが、この医院のように一から始めるところにとっては、診療に大きなしわ寄せがくる。
九州で開業する歯科医もこう話す。
「やれば便利なのかもしれないが、60代の事務スタッフがITに疎いため、カードリーダーに拒否感を持っていて、ほとんど利用していません。導入時に必要な書類を厚労省に送ったのですが、先方の確認漏れがあり、そのやり取りにも時間がかかった。今後、ミスが起こるのではと不安です。いきなりオンラインでやれと言われても、デジタル化に慣れていない医療機関にとっては、敷居が高い」とため息交じりに話す。
地域医療を担っている医療機関にはデジタル化が進んでいない医院も少なくない。その場合の導入コストは規模などによっても違うが、50万円から70万円程度が多い。取材した東京都内の医院では、総額74万円ほどかかったということだが、条件次第では200万円から300万円になるという。導入費用だけでなく、毎月のランニングコストがかかるため、予想外に負担が大きかったという声が多い。
デジタル機器の設置工事の順番が回ってこない
導入コストに見合ったメリットがないという不満もある。
今年3月にマイナ保険証を導入した千葉県で薬局を経営する薬剤師は言う。
「顔なじみの患者さんが多く、ほとんど使っていないにもかかわらず、カードリーダーの費用に加え、対応するレセコン(医療費の請求書であるレセプトを作成するコンピューターシステム)を入れ替えたため、70万円から80万円ほどかかりました。国からの補助(42万9000円)ではとても足りません」
経済的な負担を理由に、保険調剤をやめる薬局も出ているそうだ。小規模経営の薬局にとっては苦渋の選択をせざるを得ないという。
一方で、デジタル機器の設置をめぐっては、業者への依頼が殺到している。そのため、医療機関に必要な機器が届かず、設置工事も大幅に遅延しているというケースがあった。
茨城県で開業する歯科医に取材を申し込んだところ、開口一番こんな答えが返ってきた。
「4月からの導入義務化に備えて、かなり前に申し込んだのに、まだカードリーダーも届かないし、オンライン化する工事の順番も回ってきませんよ」(6月下旬時点)