あと1年で多くの人の理解を得られるか疑問

この歯科医院では、4月の導入に間に合わなかったため、落ち度がないのに猶予願いの書類を提出する羽目になった。現場の準備が不十分なまま性急に進めたツケが、末端の開業医に回ってきているとこぼす。

他にも「事務処理などが早く資格確認もスムーズと言われていたが、実際に使ってみると特にメリットを感じない」という感想も多く聞かれた。

大手の調剤薬局に勤務する薬剤師も「これまで使ってきて便利と思ったことは一度もない」と話す。

マイナ保険証を提示する患者がまだ1割以下で、患者の理解も認知度も進んでいないという。利用する患者は多くても2%程度という声もあった。

「利用する高齢者の多くは、紙の保険証からマイナ保険証に変わることで、どんなメリット、デメリットがあるのかよくわかっていません。その方が問題だと思います」(前出調剤薬局薬剤師)

東京都内の歯科医院のスタッフは、「患者さんから『使い方がよくわからないから、かわりにやってくれ。暗証番号もわからない』と言われ、困ってしまいました」と話す。

マイナ保険証への一本化まで1年余りだが、短期間で多くの人の理解を得られるか疑問を感じざるを得ない。

日本医師会は、紙の保険証の期限延長を要望

筆者もためしにマイナ保険証を使ってみようとしたことがあるが、結局、使わずじまいだった。その時の体験を紹介しよう。

通院している都心の総合病院でのことだ。受付でマイナカードを提示したところ、窓口のスタッフは「マイナ保険証は時間がかかり、お待たせしてしまいますよ」と、戸惑った表情を見せた。理由を尋ねると、別の窓口の専用パソコンで資格確認する必要があり、入力等で何かと手間がかかるとのこと。

「紙の保険証ならすぐにできます」と、マイナ保険証を敬遠している様子が見て取れた。肩すかしをくらった気分で、これまで使っていた保険証を提示すると、すぐに受付を済ませることができた。デジタル化が進んでいるはずの病院だったが、予想に反してマイナ保険証には及び腰という印象だった。

医療現場の不安や混乱に対し、当然のことながら、医療界からも懸念する声が上がっている。

日本歯科医師会の高橋英登会長は「医療のデジタル化には賛成だが、医療現場の声を聞かずに、やみくもにマイナ保険証の導入を推し進めることに懸念を抱いている」と話す。

日本医師会は、現場の実情を踏まえ、従来の保険証の使用期限を延長するよう要望している。

医療のデジタル化の重要性を否定する人はいないが、そのやり方があまりに強引で拙速だったことが、マイナ保険証のトラブルで明らかになったといえよう。

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