「マイナ保険証」をめぐり、全国の医療機関でトラブルが相次いでいる。医療ジャーナリストの油井香代子さんは「政府は『マイナ保険証』のメリットを強調してきたが、医療現場には大きな混乱を招いている。政府のやり方はあまりに強引で拙速ではないか」という――。
人けのない病院の待合室
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メリットが強調されてきたマイナ保険証

トラブルが次々に発覚しているマイナンバーカード。国民の保有枚数が8815万枚で普及率が約7割(2023年6月末時点、総務省調べ)となった一方で、カード返納を希望する人も出始め、6月以降その数が急増している。

中でも多くの人々の不安をかきたてているのがマイナ保険証のトラブルだろう。運用がスタートしたのは2021年10月。来年秋には長年使われてきた紙の保険証を廃止し、マイナ保険証に一本化することが決まっている(ただし、1年間の経過措置あり)。

患者や医療機関(薬局を含む)にとってメリットが大きいとされ、河野太郎デジタル担当大臣は「国民の利便性と医療の質を高める」とそのメリットを強調してきた。

今年4月からは医療機関でマイナ保険証(オンライン資格確認)の導入が原則義務化されたため、今ではほとんどの病院や薬局でマイナ保険証を導入している。当初のふれこみでは、導入で利便性が高まったはずなのだが、医療現場の評判はすこぶる悪い。

全国の医療現場で相次ぐトラブル

総合病院勤務を経て開業し、大阪で長年地域医療を支えてきた小児科医は言う。

「マイナ保険証を使う患者さんはほとんどいません。数%以下かな。私の周囲でも導入が義務化されたから仕方なくやっているところが多い」

これまで数えるほどしか使ったことはないが、トラブルが起きたという。

「同じ家の兄弟なのに、弟は読み取り機(カードリーダー)を通ったものの、兄の方は『該当なし』ではじかれました。おかしいと思って組合に問い合わせると、兄の方の保険証の切り替えが済んでいなかったことがわかりました」(前出小児科医)

患者からは「そんなバカな」と苦情を言われ、受付のスタッフが対応に追われるはめになったという。

さらに、こんなトラブルもある。千葉県の調剤薬局に勤務する薬剤師はこう話す。

「カードリーダーの読み込みがうまくいかなくなり、資格確認をしても画面が真っ白になって動かなくなった。そのため、6月の一時期、システムを切っていました」

実は、こういったトラブルが各地の医療機関から続々報告されている。