長寿の鍵を握る「たんぱく質」

2022年、100歳を超える方が日本で初めて9万人を突破したのは、非常に喜ばしいですが、一方でかなりの方が寝たきりなのはとても残念なことです。これまで繰り返しお伝えしてきたように、日本の平均寿命は男女平均で84歳ですが、健康寿命は男女平均で74歳。約10年間、寝たきりで過ごしている方も多いのです。原因は、脳卒中や認知症、骨粗しょう症による骨折が多いのですが、その大きな鍵となるのが「たんぱく質」です。

たんぱく質は、筋肉、臓器、血管など身体のすべてのもとであり、体内で作れないので食事から摂取する必要がある「必須アミノ酸」9種類と、体内で合成できる「非必須アミノ酸」11種類の計20種類から構成されています。

たんぱく質が長寿の鍵を握ることは、私の長寿研究の原点となった、遺伝的に100%脳卒中を起こす「脳卒中ラット」を使った研究で証明されました。「脳卒中ラット」に、1%の食塩水を与えると、100日以内に脳卒中を起こして全滅してしまいます。それを予防するには、脳の血管を強化する材料となるたんぱく質を与えればいいのではないかと考え、「魚」や「大豆」を与えてみたところ、血圧の上がり方が緩やかになり、ラットの寿命も延びたのです。

また、東京都健康長寿医療センターの調査でも、たんぱく質を多く摂っている人ほど寿命が長い、というデータがあります。たんぱく質摂取の指標となる「血清アルブミン」の値を高い方から四グループに分け、追跡調査をしたところ、一番高いグループ(男性は4.6g/dL以上、女性は4.7g/dL以上)は12年後にも8割の方が生存していましたが、一番低いグループ(男性は4.1g/dL以下、女性は4.2g/dL以下)は6割ほどしか生存していませんでした。

写真=iStock.com/piotr_malczyk
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寿命を延ばす「魚」と「大豆」

脳卒中ラットの研究で「魚」と「大豆」が寿命を延ばすことが分かったので、私はそれが人間にもあてはまるか、世界の長寿・短命地域を調査してきました。この結果、人間でも「魚」と「大豆」が、健康長寿の鍵となることが明らかになってきたのですが、本稿では、「魚」の持つ素晴らしい健康効果に焦点を当てて、お話ししていきたいと思います。

世界調査では、魚介類の摂取量を推測するマーカーとして「タウリン」の24時間尿への排泄量を調べました。

「タウリン」とは魚介類に多く含まれる、アミノ酸の一種です。カキ、サザエ、ハマグリ、シジミなどの貝類や、アジやサバといった近海魚、ブリやカツオの血合いの部分、カニ、イカ、タコ、エビなどに多く含まれています。栄養ドリンクなどの広告で耳にしたことのある方も多いでしょう。