子育てをしながら漢方と栄養学を学ぶ

家にいる時間が増えたとはいえ、英子さんは専業主婦になったつもりもなかった。

「夫は歯科医院を開業していて、夫の稼ぎだけで子育てしていました。でも、専業主婦になったつもりはないんです。夫の診察の準備をしたり、産婦人科医として頼まれれば地方の病院に行き、入院患者の健康診断を担当したりと、家の用事だけしていたわけでもないんです」

四女が風邪を引き、漢方薬を与えたところ症状が悪化し、副作用で間質性肺炎になりかけたことがきっかけで漢方薬の勉強を本格的に始めた。

撮影=門川裕子

「日本では医師免許があれば漢方薬を処方できるので、私の判断で与えたら四女がしんどくなった。中国では、西洋医の先生は漢方を出すことができない。出せるのは、中医の先生だけです。そこで漢方医の先生に聞きながら、ちゃんと勉強しようと思いました」

子育てを通し、栄養学にも興味が出てきたため、女子栄養大学の通信過程で栄養学も学んだ。それは今も、診察に生きている。

「摂食障害の方とか食欲不振の方に、『スパゲティでもサバ缶とかブロッコリーとか入れたら、栄養あるものになりますよ』って話すと、『やってみました』っておっしゃる方もいます」

初めて給料をもらったのは53歳

新たな分野を勉強するために、勤務医に戻ろうと思ったのは51歳の時だ。上の3人はすでに大学生、末っ子は小学5年生になった。

「これで、『自分にも、勉強できる時間があるんちゃうか』と思って、脳神経学への興味から精神医学を勉強しようと、母校の精神科教室に入局しました」

再び勤務医に戻り、「第二北山病院」に精神科医として勤務した時に初めて、英子さんは医師としての報酬を手にした。

「初めて給料をもらったのは、53歳かその辺。産婦人科にいた頃は、副手だったから給料がない。当時は給料が出るのは、助手からだったので。給料ばかりか、ボーナスというものも出るんやちゅうて、初めてもらいましたね」

手にした給料やボーナスの行き先は決まっていた。

「子どもたちの授業料が要るし、別に自分のものを買うわけにもいかないし、お金というものに頓着はなかったですね」