「歯の治療」のハードルが高い

彼らに限らず、トラックドライバーには歯がなかったり、または歯に何らかの問題を抱える人が多い。根本的な要因は、やはり「家に帰れない」ことにある。

1週間以上家に帰れない生活をしていると、なかなかできないことが結構ある。「賞味期限の早い食品の買いだめ」や「子どもの面倒」、「回覧板の管理」などなど。そして、なかでも難しいのが「通院」だ。

地元の病院に定期的に通うことは、運行上、非常に難しい。

とはいえ、タイトなスケジュール管理、そして大型車を停められる駐車マスがないという問題から、運行中に訪れた見知らぬ土地でも、通院はもちろん、突然の発熱や腹痛で病院にかけこむことはなかなか難しい。

このような状況のなか、定期的に通えないという意味で特にハードルが高いのが「歯の治療」なのだ。

不規則な生活が続くうえ、重たい荷物を積み降ろしする際は歯を食いしばるなど、トラックドライバーには歯が悪くなる条件が多い。

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「やってられん」と治療を断念してしまう

海外ではあまりそんなことはないのだが、日本の歯医者はなぜか通院が長引く。

虫歯の治療でも週に1度のペースで1、2カ月通院しなければならないし、差し歯や入れ歯をつくるとなれば、レントゲンを撮ったり、歯型を取ったりする期間が必要になる。そのため、「やってられん」と治療を断念してしまうドライバーが少なくないのだ。

ようやく地元に戻って来て、またすぐに次の運行があるという状況で、小さな虫歯程度で歯医者に通うトラックドライバーは、私は聞いたことがない。むしろ「そもそもたまの休みに病院なんか行ってたら本当に病気になる」とか言う人までいる。

そのため、歯の治療は「内臓が悪くなったわけではない」「運行にそれほど支障がない」という理由からほったらかしにされやすい。だから、トラックドライバーには年齢にかかわらず、歯がない人が多いのだ。

当時、そんな彼らの事情を知る由もなかった私は、両親や友人に「トラックドライバーに歯がないのなんでや」「私もいずれ歯がなくなるんか」という話を冗談半分にしていたのだが、あのころの自分を思い出すたびに胸がツンと痛む。

24時間の道路上生活

長距離ドライバーの仕事は、文字通り「長距離を走り荷物を運ぶ」こと。そのため、日帰りできる運行はほとんどない(というか、日帰りできる運行は長距離とは言わない)。

時には1週間、長い人だと2週間もの間家に帰らず車内で過ごす。たまたま日数の短い運行で地元に帰ってきたとしても、「家に帰ったらもう仕事に出たくなくなる」と、会社の仮眠室で過ごしてそのまま次の運行に出るという人も少なくない。