腸の透過は倦怠感やうつなどを引き起こす

透過しやすい腸の危険性の1つは、細菌の「内毒素(エンドトキシン)」(リポ多糖、またはLPS)が腸壁から漏れて血液中に放出されてしまうことだ。

LPSはある種の細菌の外膜を構成する分子で、普段は大腸のなかでひっそり安全に暮らしている。ところが血液中に放出されると、細菌の侵入を知らせるシグナルが発信される。そして炎症性サイトカインが産生され、酸化ストレスが増進し、体内のさまざまなシステムに大混乱が起きる──脳も含めて。

家畜に炎症が起きるのはたいていは感染症によるものだが、その場合、倦怠けんたい感やうつ、不安の症状が見られ、毛づくろいをしなくなるなど行動に変化が起きる。そして身体を癒やすためにエネルギーを温存し、健康な仲間に感染させないように群れから離れてじっとうずくまっている。だが、これは家畜だけに見られる現象ではなく、人間も同じような行動を取る。

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人間の場合は短気になり、食事や他者との交流に興味がなくなり、ものごとに集中できなくなり、つい最近の出来事でさえ思い出せなくなるこのような症状は「病者行動」と呼ばれ、農場主や動物園の飼育係、科学者のあいだではよく知られている現象だ。心理学者は、これを生存のための生物学的な適応戦略だと考えている。

うつ病は、この疾病行動の極端な形かもしれない。うつ病は心血管疾患や関節炎、糖尿病、ガンなど、炎症がともなう疾患の患者に多いことがよく知られている。表面上、こうした症状は脳とは無関係に見えるが、血中の炎症マーカーとうつ病のリスクには強い相関関係がある。

つまり炎症マーカーの値が上がるほど、うつ病の症状も重くなるのだ。

世界では、3億5000万人以上もの人がうつ病を患っているといわれている。そして既存の治療法に挑戦すべく、この病気の原因においてまったく新しい説が生まれた。うつ病は、炎症性サイトカインが原因だという仮説である。

さらに腸のバリアの透過性を促すタンパク質、ゾヌリンは別の特殊な上皮細胞の層――血液脳関門のタイトジャンクションも緩ませることができる。血液脳関門の破壊は、アルツハイマー病の初期段階と関わっているため、これは重大事だ。

腸の透過を防ぐ方法

ではどうしたら、腸の透過による炎症性サイトカインや血液脳関門の破壊を防ぐことができるのか。

当然ながら、グルテン・フリーの食事(グルテンを摂らない食事)はゾヌリンのレベルも腸の透過性も抑え、血液脳関門の保護バリアも維持できる可能性がある。

では、セリアック病や小麦アレルギーでなくとも、食生活から小麦を除いたら脳の機能が改善されるのだろうか?

先頃、コロンビア大学の研究チームが、まさにこの疑問に答えようと、セリアック病でも小麦アレルギーでもない被験者を対象に研究を行った。ところが、この被験者たちは小麦を含む食品を食べたあとで疲労感を覚えたり、認知機能に衰えがあるなどの症状を訴えた。

そこで研究チームは、被験者に小麦やライ麦、大麦を除いた食事をとるように指示した。すると6カ月後、免疫細胞が活性化しているのがわかり、腸の細胞のダメージは解消していた。被験者からアンケートを通して詳しい話を聞いたところ、消化管の症状や認知機能も大幅に改善していたという。医学界では、グルテン過敏症の存在そのものについて議論や論争が続いている。だが、この興味深い研究は、客観的な調査によって初めて「非セリアック小麦過敏症」を実証したといえるだろう。