指標に囲まれる私たちの社会

「指標」あるいは「指数」(英語だとindexあるいはindicator)とは、一言でいえば、複雑な状態をシンプルに数字で表現したもの、あるいはその算出方法である。私たちの社会は複雑であり、それをシンプルに表現したいというニーズは大きい。そのため数多くの指標が作られ、それらが報道等を通じて広められる。

有名なところだと、日本でもすでに100年以上の歴史がある「物価指数」、経済ニュースで毎日のように目にする「東証株価指数(TOPIX)」などがある。これらはマクロ経済に関連する指標だが、個人単位で計測される「知能指数」や「BMI(ボディマス指数)」など、数え上げればきりがないほど、たくさんの指標に私たちは囲まれている。

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さらに一部の指標は、私たちの生活や社会を作り変える力を持つ。というのは、私たちは指標を参照しつつ行動方針を決めることが当たり前にあるからだ。つまり、専門家が社会を観察して指標を算出し、その指標がメディア等を通じて広がり、それを私たちが参照することで、社会が変化していく(図表2)。こういった循環的な関係のことを、社会学では「(制度的)再帰性」という概念で表すことがある。

図表作成=筆者

指標が社会活動に影響する仕方はさまざまだが、たとえばTOPIXを参照した株式のインデックス運用が大規模に行われる場合、売買がTOPIXの対象となる全銘柄に対して行われるため、流動性(売り買いの頻度)が低い銘柄の株価をも上げてしまうという「影響力」を持っている。

ジェンダーギャップ指数の特性

国の状態を比較する数値でも、人口、高齢化率、GDPといった構成概念として理解しやすい数値もある。こういった数値の場合、適切に調査・計算されれば、専門家や組織によって結果が大きくブレるということはそれほどない。

しかしすでにみたように、「ジェンダー平等」といった抽象度の高い概念を示す指標になると、指標の作り方によって結果が大きく分かれることが起こりうる。

ジェンダーギャップ指数の場合、不平等を「ギャップ」として捉えるという方針をとる。これはすなわち、「ギャップが定義できない項目は扱わない」ということだ。扱うのは下記の項目と、そこから計算される4つのサブ指標である(図表4)。

図表作成=筆者

たとえば「出生性比」は、何らかの理由で男児選好、すなわち生まれてくる子どもの性として、女性よりも男性を欲する傾向が強い場合、男女間の差が大きくなる。他の項目も、いずれも男性でも女性でも定義できる数値のみが扱われる。

ただ、このことは、ジェンダー「不平等」を測定する上で必ずしも適切であるとは言えない。