公明も東京で「自損行為」の恐れ

今回、当事者の自民党都連には、動揺が走った。衆院の1選挙区当たり2万票余とされる公明・創価学会票を得られなければ、当選が危うくなる議員が少なくないからだ。前回2021年の衆院選で、都内25選挙区では、自民党は23人を擁立し、21人が公明党の推薦を受けた。選挙区で当選した14人中、次点と2万票以内の差だったのは、小倉将信少子化相(東京23区)ら6人を数える。

公明党にとっても、東京29区で自民党の推薦を求めないなら、衆院の議席減という「自損行為」につながる。これまで東京では選挙区1人、比例ブロックで2人の計3人が議席を得ていたが、東京29区で岡本氏は2万~3万票しか望めず、比例選に重複立候補するにしても、東京ブロックで2人しか当選できない計算だからだ。

全国を見ても、公明党は、21年の衆院選で選挙区で9人が自民党の推薦を受けて当選し、比例選でも自民党票がかなり流入してきた。自民党との選挙協力による議席の積み上げは十数議席ともいわれる。選挙協力は公明党の一方的な持ち出しというわけではない。

公明党関係者からは「佐藤氏は、目の前の選挙への対応を優先し、全体の政局や自公連立への影響などを考えようとしない」という困惑の声もささやかれる。

菅前首相と佐藤氏の太いパイプ

佐藤氏の政治力の源泉は、菅前首相との太いパイプにあるとされる。2015年暮れ、消費税率がその後の19年10月に8%から10%に引き上げられる際の食料品などに適用される軽減税率の導入に、佐藤氏が当時の菅官房長官に働きかけて実現したことから、その存在が永田町に知れ渡った。公明党関係者は、自民党税調会長が軽減税率に慎重だった野田毅氏(元自治相)から、同じ財務省出身の宮沢洋一氏(元経済産業相)に代わったのも、佐藤氏の安倍政権への影響だった、と見ている。

昨年の参院選では、兵庫選挙区などで公明党候補への自民党推薦が遅れ、自公両党が党本部間の相互推薦を見送って対立した際、菅氏が間に入って茂木氏と佐藤氏の会談をセットし、地方組織同士が調整できるように持っていったことがある。

菅義偉首相(当時)は令和3年9月3日、自由民主党総裁選挙に立候補しない意向を表明(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

佐藤氏は、日本維新の会との関係でも、菅氏が頼りだった。公明党は、2012年衆院選で、維新が提唱した「大阪都構想」への協力と引き換えに、大阪・兵庫の6選挙区で維新から推薦を受け、6議席を獲得した。その後、公明党が都構想批判に転じると、橋下徹大阪市長が激怒し、2014年の衆院選を前に対立候補擁立に動いたことがある。この時は佐藤氏が官房長官だった菅氏に橋下氏を懐柔するよう密かに依頼し、最終的に維新が6選挙区で候補擁立を見送った。

維新は、今年4月の統一地方選後、公明党との選挙協力を「一度リセットする」(馬場伸幸代表)と表明しており、公明党・創価学会に危機感が強まっている。