アメリカでの評価を高めていく

創造の20年の後を受けて、ラグランジュにおける吉雄さんのミッションは何だろうか。

「ワインの質は確実によくなっているので、いかにして価値を上げていくかが課題です。特に、上質なワインの愛好家が多いアメリカで、どう評価を上げていくかが重要です。具体的には、著名なワイン・ジャーナリストが集まっているニューヨークで、メーカーズ・ディナーを開いて、ラグランジュを知っていただくといったことですね」

撮影=遠藤素子

メーカーズ・ディナーとは、生産者自身がワインづくりについて解説をしながら、自作のワインを飲んでもらうイベントのことだ。ニューヨークでそんなイベントを打つなんて、ドメスティックな人間には想像もつかないことである。吉雄さん、ビビらないのか?

「私はフランスだけでなくスペイン、イタリア、アメリカの大手提携先ともお付き合いをするわけですが、われわれは単なるインポーターではなく、ボルドーでワインをつくっている生産者でもあると、物おじせずに、自信を持って伝えると、リスペクトしてもらえるのを実感します。サントリーは日本でも100年以上前からワインをつくっていますが、ボルドーでグランクリュを持ってワインをつくるということは、ワインで世界的にトップの会社になる覚悟の表れだと思うのです。もちろん、緊張も気負いもありますけど、しっかりものをつくっていることを私自身が腹を据えて相手に伝えれば、対等に扱ってくれるし、海外には日本のものづくりをリスペクトしてくれている人が多いとも感じます」

ちなみに、海外での失敗談も聞きたいと思ったのだが、「海外での仕事は言葉の問題もあり緊張はしますが、それなりにこちらの言うべきことをちゃんとお伝えすればコミュニケーションは取れますし、行けば不思議と何とかなる感じです」との答えであった。

ワインの価格が決まる過程

ボルドーのワインは、独特の商習慣によって世界各国に販売されていく。4月にプリムールというイベントがあり、生産者とワイン・ジャーナリスト、ネゴシアンと呼ばれる輸出商社などが一堂に会して前年度にできた新しいワインを試飲し、評価していく。この評価にもとづいて、ボルドーのワインの価格は決められていくという。

2023年のプリムールがあった4月にサントリーの経営参画40周年を記念してシャトーラグランジュでパーティが開催されている。集まった関係者の総数は、260人。そのほとんどがフランス人であった。

©LyciaWalter
今年シャトーラグランジュで開催されたパーティにて。
©LyciaWalter
今年シャトーラグランジュで開催されたパーティにて。

ライトアップされた城館の前庭に仮設のテントが張られ、パリの三ツ星レストランから日本人シェフが招かれ、和食のように繊細極まりないフランス料理がふるまわれた。

吉雄さんは招待する側としてこのパーティに参加したわけだが、「名実ともに地元に受け入れられるシャトーになったのだという、晴れがましい気分だった」そうだ。