サントリーの吉雄敬子さんは、子育てをしながら「金麦」や「なっちゃん」などヒット商品を生み出し、現在はワインカンパニーの社長を務める。フランス・ボルドー地方で経営する「シャトーラグランジュ」は事業の大きな柱だ。買収40周年を迎えたこの事業を彼女はどう育てていこうとしているのだろうか――。

荒廃を極めたぶどう畑

サントリーがワインの名産地、フランスのボルドー地方でシャトーを経営していることは、あまり知られていないかもしれない。しかも、グランクリュ(特級畑)の第3級である。その名を「シャトーラグランジュ」という。

サントリー ワインカンパニー 吉雄敬子社長
撮影=遠藤素子
サントリー ワインカンパニー 吉雄敬子社長

3級と聞くと、門外漢は「1級、2級より下なのか」と思ってしまうが、ボルドー全体のシャトーの数は5000軒にも及ぶとも言われるなかで、ボルドーメドック地区のグランクリュに格付けされているシャトーはわずか61しかない。1級はラフィット、ラトゥール、マルゴーといった、一度は耳にしたことのある名前のシャトーが5つのみ。2級は14。つまり、3級より上位のグランクリュは19しかないのだ。3級といっても、上澄みのなかの3級なのである。

メドック地区に位置するラグランジュは、17世紀初頭につくられた約400年もの歴史を誇る名門シャトーである。伝統的な構えの城館と白鳥が泳ぐ大きな池を具えた、まるで絵葉書のように美しいシャトーだが、サントリーが買収した1983年当時は城館も庭園も、そして肝心のぶどう畑も荒廃を極めていた。

今年で買収からちょうど40年になるが、この間、ボルドーの地でサントリーがいったい何をやってきたのか。これもまた、日本ではほとんど知られていないことだろう。

グループの事業会社で初の女性社長

そして、シャトーラグランジュを有するサントリーのワイン事業のトップが吉雄敬子という名前の女性であることも、あまり知られていないことかもしれない。

2021年にサントリーの事業会社初の女性社長となった吉雄さんの入社は1991年。ちょうど入社30年の節目の年が、社長就任の年となった。

子育てをしながら、「金麦」「なっちゃん」などのブランドマネジメントや商品開発を担当し、ヒット商品に育て上げてきた経験を持つ吉雄さんは、フランス文化の粋とも言えるボルドーのグランクリュ、シャトーラグランジュと、どのように切り結んでいくのだろうか。