樹齢40年、ぶどうの木が適齢期に入ってきた

ラグランジュは「復興の20年」を経て品質の評価を着実に上げてきており、ワインカンパニーでは直近の20年を「創造の20年」と呼んでいる。

サントリー ワインカンパニー 吉雄敬子社長
撮影=遠藤素子

2012年頃までは、メドックのグランクリュ内での評価点順位が50位台から20位台までの間を乱高下していたが、2013年以降は安定的にトップ20~25位を維持している。3級以上のシャトーは33あるから、3級の中の上位を維持していると言っていいだろう。

では、「創造の20年」でサントリーは何をしてきたのか。

まずは、畑の区画を細かくしてぶどうの熟し具合を精密に管理し、醸造タンクを小型化することによって細分化された区画ごとの仕込みを可能にした。ボルドーにはアッサンブラージュといって、複数の原酒をブレンドすることでシャトー独自の味をつくり出す伝統がある。味の異なるタンクがたくさんあることは、アッサンブラージュの可能性を広げることになる。

また、買収当時に新たに植えたぶどうの樹が樹齢40年を迎えて、ワインに適した果実をつけるようになってきたことも大きい。ラグランジュのぶどうの樹齢が、まさに「適齢期」に入ってきたのである。

さらにシャトーワイン(シャトーで最も品質の高いワイン)の量の絞り込み(少なくする)や、気候温暖化に伴い、完熟した状態での収穫が可能となったカベルネ・ソーヴィニヨン(ぶどうの品種)の比率を高めることによって、より品質の高いワインをつくり出す努力も継続されている。

ボルドーの伝統は守りながら、そこにサントリーらしい、すなわち、日本人的に緻密で丁寧なワインづくりの手法を導入していったのだ。これは、サントリーがウイスキーづくりで実践してきたことでもある。吉雄さんは、この「創造の20年」によって、ボルドーでのワインづくりが「わかってきた」のだと表現する。

結果、2019年のヴィンテージは著名な評論家(ジェーン・アンソン、ウイリアム・ケレー、ジョージ・ヒンデル、ニール・マーティン)の評価で、95点以上という過去最高得点を獲得することに成功しているのである。

経験がなくても「なんとかなる」

その2年後の2021年、吉雄敬子さんはサントリーワインインターナショナルの社長に就任している。入社して30年。就任を打診された時の気持ちは、どのようなものだっただろうか?

「ずっとマーケティングと商品開発にかかわってきて、お客様にかかわりながらものづくりを見られる仕事を続けていきたいと思っていましたので、意欲を持って取り組める仕事だと思いました。ワインのことはあまり詳しくありませんでしたが、ビールと同じお酒だし、なんとかなるかなと(笑)。むしろ、海外出張が多いインターナショナルな仕事なんて大丈夫かしら、という心配の方が大きかったですね。でも、慣れるに従って、どの国の人であろうと、同じお酒の仕事をしている人たちなんだと思えるようになりました」