特にいまみたいな時代は、世間の風潮とか他人の顔色を見て生きていたら、いくつ体があっても足りないよ。自分がいいと思ったら、その道を進んでいけばいいんだ。
他人の意見を聞いてばかりだと、下降線になったときに「あのとき、あの人の話を聞かなきゃよかったなあ」「おれは違うと思っていたんだがなあ」ということになるからね。
いろんな人のご意見は、あくまでもアドバイス。それを参考にして、自分で決めて動いていくしかないんだよ。実行するのは自分なんだから。
僕なんかも、千日回峰行のときに周りの人から言われるの。「今日は嵐がくるから、ちょっと時間を遅らせて出発したらどうですか」と。
でも、毎日歩いているのは僕なんだ。出発を遅らせたら、それだけ帰ってくる時間が遅くなる。帰ってからやることも遅くなる。
同じようなペースで行こうと思ったら、嵐がこようが何があろうが、やっぱり進んでいかなきゃ駄目なんだ。千日回峰行は、どんなことがあっても休んではいけないからね。
自分のことは自分で引き受けて、歩いていくしかないんだよ。そういうことじゃないのかな。
酒井雄哉
比叡山飯室谷不動堂長寿院住職。1926年、大阪府生まれ。夜学の慶應義塾商業学校を経て熊本県人吉の予科練に志願し、鹿児島県鹿屋の特攻隊基地で終戦を迎える。戦後は職を転々とし、40歳のときに仏門へ。7年をかけ延べ4万kmを歩く「千日回峰行」を2度満行。著書に『一日一生』『「賢バカ」になっちゃいけないよ』など。