富裕層であっても救急車すら呼べない中国の事情

そのひとつが中国国内の厳しい生活環境だ。私の記事「金融資産が数億円程度では救急車すら呼べない…中国人が日本の医療体制に感動を覚えるワケ」でも紹介したが、中国の医療事情は日本に比べて、非常にお粗末だ。

高齢になれば、誰でも医療機関にかかる機会が増えるが、同記事で紹介したように、中国では、たとえ富裕層であっても、いい医療を享受できるとは限らず、きちんとした治療をしてもらえるのかという不安がつきまとう。

また、物価もうなぎ上りで上昇している。杉原氏自身、久しぶりに中国に滞在し、上海の物価の高さに驚いたという。

「ちょっと高い中華料理店にお昼に行き、2人で5品注文したら、計2000元(約3万8000円)でした。流行している日本スタイルの『おまかせ(OMAKASE)料理』などは1人2500元(約4万7500円)くらいします。上海の富裕層はこうした物価の高さに慣れていますが、日本から行った私は、改めて日本の食事のおいしさ、そして、あらゆる面でのコスパの高さを痛感しました」(杉原氏)

それは単に物価が安いというだけでない。日本は食や水の安全性なども含めて、トータルで見たコスパの高さが際立って高いという。杉原氏も指摘している通り、中国では食の安全性に不安を覚える人が少なくない。農薬問題だけでなく、家畜に与えるエサの安全性に疑問を持つ人も多い。

農薬を洗い出すために「野菜専用の洗剤」を使う

大都市では、日本のように生産者を明記した野菜や果物、有機食品などだけを扱う高級スーパーなどもあり、富裕層なら、今はそれなりに「身体にいい食材」を選んで生活できるようになった。

だが、それでも流通経路がすべてわかっているわけではない。中国では、トマトやキュウリなどの野菜は量り売りが一般的だ。よってバラ売り換算すると日本よりかなり安いのだが、どんな肥料や農薬が使われているかわからないという潜在的な不安がある。

医療と同じく、そもそも、中国人は自国の食の安全性をあまり信用していない。水道水はもちろん飲めないし、野菜や果物は、調理する前に(農薬を抜くため)長時間、水につけておく、野菜専用の洗剤を使用するなど、農薬問題も気にしている。最近は生野菜サラダを食べる中国人が増えているが、生で食べられるのは、特別に栽培した野菜だけだ。

このような理由から、中国では富裕層が田畑や牧場を所有していることが珍しくない。といっても、自分自身で畑を耕したりするわけではなく、生産農家と契約して、自分や家族、親戚用に野菜や果物、コメ、鶏や牛、羊などを育ててもらっているのだ。