「正当防衛」を理由に多発する銃殺事件

ワシントン・ポスト紙は、「正当防衛」の一環として銃で殺害される事件も絶えないと指摘する。自分の家や車と間違って別のドアを開けた瞬間、中にいた家主や持ち主に射殺される事例が絶えないという。中西部ミズーリ州では4月、スーパーの駐車場で間違って別の車のドアを開けたチアリーダー2人が撃たれ、1人が重傷を負った。

凄惨せいさんな事件は、アメリカでなぜ繰り返すのか。撃たれる前に撃つという基本精神が原因だとの議論があるようだ。州によって広まっている「stand your ground」という考え方が一因だと同紙は指摘する。

これは、他人から危害を受けるおそれのある状況にある場合、その当人による銃を含む反撃を正当な行為と認めるものだ。ポイントとして、当人が恐怖を感じたならば、他人が実際に危害を加える前であっても反撃してよいと認められている。

ワシントン・ポスト紙は、この法律が施行されている州においては、過去2年間の殺人事件発生率が55%高いと指摘している。相関関係であって因果関係が証明されたわけではないことに注意が必要(たとえば殺人率が高いことが原因で法律が施行されたという逆の因果関係も想定される)だが、ひとつの事実として注目に値するだろう。

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撃たれる前に撃つという、壊れた基本精神

行きすぎた自衛が問題だとの見方に、米ペンクラブ元会長で作家のフランシーン・プローズ氏も同調する。彼女は英ガーディアン紙に寄稿し、撃たれる前にまずは撃ってしまえばよいという考え方が元凶だとの考えを示している。

「どうすれば、まずは撃ってあとから質問すれば良いという信念を変えることができるのでしょうか? わが国(アメリカ)のカウボーイ的なDNAにあるこの壊れた染色体は、どうすれば修復できるのでしょう?」と自問する。

プローズ氏はまた、「フィンランドやスペイン、カナダでは、見知らぬ人の家のドアをノックしただけで撃たれるようなことは考えにくい」と指摘し、「私たちアメリカ人は、国民的なアンガーマネジメントの問題を抱えているようです」と嘆いている。

アメリカ人は銃を手放せない悪循環に陥っている

銃撃事件の増加により、アメリカの人々はますます恐怖とパラノイアを増幅させる悪循環に陥っているようだ。プローズ氏は、アメリカで銃犯罪が絶えない理由の特定は困難だとしながらも、「銃乱射事件の増加により、私たちは不安に陥っています」と述べている。

氏は、「衝動的かつ爆発的で、進んで引き金を引かせるような激情の高まりにより、恐怖とパラノイアが増幅し、仲間であるはずの乗客や買い物客たちに対して警戒心を抱かせているのです」との見解を示している。