世界最悪の獣害事件とはどんなものか。ノンフィクション作家の中山茂大さんは「12人が死亡したインドの『マイソールの人喰い熊事件』が有名だが、それ以上の事件があった可能性がある。それが1886年にカナダで起きた『ラブラドール事件』だ。真偽は不明だが、当時の新聞は『3500人が飢えと野獣に殺された』と報じている」という――。
知られざる世界最大の獣害「ラブラドール事件」
大正4年12月に発生し、8名が喰い殺された「苫前三毛別事件」は、日本最大の獣害事件として広く知られている。
しかし世界では、もっと凄惨な人喰い熊事件が起きている。
そのひとつがインド南部で発生した「マイソールの人喰い熊事件」である。
この事件では、12人が死亡、24人が負傷したとされ、「世界最悪の獣害事件」ともいわれる。詳細については、ケネス・アンダーソンの『MAN-EATERS AND JUNGLE KILLERS』(1957年初版)に記されている。
だが、今回筆者は、表題にある通り、単なる人喰い熊事件というより、ホッキョクグマによる大量虐殺ともいうべき、恐るべき獣害事件を記した新聞記事をみつけた。
19世紀のカナダ、ラブラドール地方で発生し、詳細な犠牲者数は不明ながら、数百名の村人が襲われ、喰い殺されたと報じられた事件である。
インディアンが死んだ仲間を喰っている
当時の新聞報道を紹介しよう。第1報は次のようなものだった。
「ラブラドールの飢餓に関連して、最近、ホワイトベイから送られた報告によれば、大量のホッキョクグマが飢餓によって南に追いやられ、国を荒廃させているという。クマの数は約1000頭で、マグフォード岬の近くに出現している。この地域では、インディアンが死んだ仲間を喰っており、死亡した白人入植者は、遺体を喰われないように、イヌイットが密かに埋葬している」(Daily Republican. July 29, 1886)