別の視点として、実際に治安が悪化しているか否かにかかわらず、一部メディアによる過剰な報道が不安を煽っているとの指摘もある。

ワシントン・ポスト紙は、治安が悪化しているとの誤った認識に基づく恐怖感が、銃への依存を招いていると指摘する。例えば保守派FOXニュースは、中道CNNなどと比較した場合、銃犯罪を79%多く報道しているという。

ワシントン・ポスト紙によると、2020年以降で地域の治安が悪化したと考える人の割合は、支持政党で大きなギャップが発生しているという。共和党支持者では38%から73%に急上昇した。民主党支持者では5ポイント上昇し、42%になった。しかし実際には2022年、全米の暴力事件発生数は5年平均を下回っていたという。米国国内の分断を促進するような報道が繰り返され、これにより無用な危機感が高まっているとの見方があるようだ。

自分の身を守るため、銃で他人を傷つける

アメリカは紛れもない先進国であり、世界有数の大国であることに疑いはない。自由と自立を尊ぶその基本精神は、多くの場面でプラスの効果をもたらしてきた。例として多くの起業家を輩出し、ビジネスの世界をリードしている。大手テック企業のGAFAMは、5社すべてがアメリカに立地する。

一方でその根底を成す「自由」の感覚は、時として行きすぎることがあるようだ。他人を殺傷する能力を持った銃の携帯が州によっては日常的に許可されているが、他人の生命を脅かす銃器の携帯はもはや本人の自由の範囲を超越している。

観光やビジネスでアメリカを訪れる機会のある私たちにとっても、決して他人事ではない。昨年は日本人留学生の射殺事件から30年の節目を迎え、銃社会の危険性を改めて認識する機会となった。

1992年、当時高校2年生だった服部剛丈よしひろさんが、憧れのアメリカ滞在中に銃殺された事件だ。ハロウィーンの仮装パーティーに出向く途中、誤って別の家のドアをノックしたことが原因だった。日本ならば考えられない痛ましい出来事だ。

銃の所持や乱射事件が絶えない要因には、緩い銃規制や、撃たれる前に撃ってしまえばよいという開拓時代の基本精神、アメリカ国内の治安が悪化しているとの認識の高まりがあるのだろう。こうした事情から、アメリカ人が銃を手放せなくなる悪循環に陥っているとの見方がある。

地元のスーパーや学校に出かけるにも一定の緊張感をもって外出しなければならない環境は長年続いており、アメリカの人々からも異常さを指摘する声は聞かれる。

だが、それでも銃所持の自由を訴える声は大きく響く。身を護るための銃が互いを傷つけている社会は、残念なことに当面変わる気配が見えない。

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