異色の農業を科学することに挑戦

浅井社長は実家に戻る前、ベンチャー時代に知り合った静岡県の企業の経営を手伝っていたが、その企業が新規事業としてミニトマトの栽培を手がけていたのだ。

「もともとトマトが好きじゃなかったんです。ところが、その会社のミニトマトは、甘くておいしかった。品種選びや栽培方法を工夫すれば、トマト嫌いの人でも食べられるトマトができる。チャレンジのしがいがある仕事だと、考えたんです」

早速、花木の苗木育成用の空きスペースを転用して、ミニトマトの栽培を始めた。試行錯誤の末、やっと「おいしい」と言えるトマトが実ったのだが、収穫量が少なく、費用がかかりすぎて、採算割れした。それでは、事業化など到底おぼつかない。

「農業には経営コンサルなどの経験がまったく通用せず、自信を失いかけました。そうしたなかで誰も手を付けてこなかった“農業を科学する”ことに、事業化の成否を賭けてみようと思い至ったのです」

撮影=山口典利

最適な環境を整えれば収穫量は最大化できる

浅井社長によると、農業における生産性は、品種の選定、その品種の能力を最大限引き出す生産管理技術の2つによって決まる。植物は実に正直で、最適な生育環境を整え、最適なタイミングで栽培管理を行えば、収穫量を最大化できることが、すでに科学的に実証されている。しかし、熟練の農家は、経験と勘に基づいて農作業をしてきたので、その最適解が個人の“暗黙知”としてしか存在していなかった。他者が共有できる客観的なデータは、どこにもなかったのだ。

「そこで、まず“標準化”を目指しました。どんな条件で、どういった農作業をすればいいのかというデータと理論があれば、質のいい農作物を安定的に、しかも、効率的に低コストで生産できると、仮説を立てたわけです」

撮影=山口典利

清水の舞台から飛び降りる思いで持っていた資金を叩き、10年に農業先進国であるオランダから「複合環境制御システム」を導入。センサーの設置によって、ハウスの温度や湿度、CO2(二酸化酸素)濃度といったトマト栽培に関わる、さまざまな環境データの集積から、まず着手した。「収穫の結果と照合すれば、どんなファクターが、トマトの生育に好影響を与えたのかがわかります。今度は、そうしたデータをフィードバックして、トマトの生産に生かせばいいわけです。言い換えれば、農業の“見える化”による生産改善です」