ままならない人生だったからこそ名曲が生まれた

晩年のベートーヴェンのラブレターとして最も有名な「不滅の恋人よ」と呼びかけたものも実は、相手に渡っていない。ベートーヴェンの死後に机の中から出てきた、つまり独白ラブレターなのだ。ここまでくるとベートーヴェンのモテなさが可哀想な気さえしてくる。

渋谷ゆう子『名曲の裏側 クラシック音楽家のヤバすぎる人生』(ポプラ新書)

ベートーヴェンは作曲家として輝かしい地位を築いた。生まれて250年が経った今も楽聖として崇められている。彼がいなかったら今のクラシック音楽はなかっただろう。病気や難聴といった不遇な運命にあっても残した功績は素晴らしい。作曲家として成功し、ウィーン音楽文化の中心的な存在であるベートーヴェンは、デキるオトコとして大変理想的だ。社会的な成功は男性を魅力的に見せる。

だがしかし、一歩そのプライベートに近づいたら、その奇人ぶり、気難しい気性についていけないと周囲が思ったのも理解できる。ベートーヴェンに愛し愛され、心の支えになってくれる女性がもしそばにいたら、生まれた楽曲の数々もまた違っていたかもしれない、と思わなくもない。

今残っている楽曲を聴いて、そう、いややっぱり思わないな、このままがむしろいい。この情熱と経験と、そしてままならない人生が偉大な作品へと繋がっている。フラれ続けてくれてありがとうベートーヴェン。いや感謝すべきは彼を受け入れなかった女性たちかも。

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