「言われた通りにしか動かない」が日本人の欠点
「日本の選手は他人の言うことを聞き過ぎる。日本の選手はコーチが右に行けと言ったら、右に行く。ヨーロッパの選手はわざと左に行くよ」
そう言って、自己判断力と創造力を求めた。オシムが自分が設定したグリッドから飛び出して動こうとしない選手を叱ることは少なくなかったが、池上もその場面を何度も見た。
「どうして動かないんだ? そこじゃもらえないだろう?」
「グリッドがあるので」と説明すると、再び怒られる。
「試合のピッチにグリッドなんてあるのか!」
池上は懐かしそうに笑って言う。
「それやったら、なんで(グリッドを示す)マーカー置いてんねん? と選手は言いたくなるでしょ? やってる選手には申し訳ないんだけど、本当に面白かったです。オシムさんは選手にいつも、これがゲームやったらどうするの? と問いかけてました。常に実戦をイメージして動いたら、決まりごとなんて忘れるものだろ? と言いたかったんだと思います。一見すると、はちゃめちゃなことを言っているようですが、言われた通りにしかプレーしない日本人の欠点を修正したかったのかもしれません」
日本人と外国人選手との決定的な違い
練習時のギャラリーが多いと、さまざまな試みを見せてくれた。日本と世界レベルの違いを見せてくれることもあった。池上たちが見ていると「ちょっと見ておけ」といった風情でチラッとギャラリーのほうを見て手をこまねいた。
ある日はポストシュートの練習を始めた。オシムがゴール裏に立ち、選手がシュート動作に入る瞬間に人差し指を左右上下に振って、シュートを突き刺す場所を指示するのだ。始めると、日本人選手はうまく蹴り分けられなかった。
「でも、崔竜洙など外国人選手は全員間違いなく、ノッキングを起こさずにスムーズに蹴り込む。スキルの違いを見せつけられました」
ノッキングとは、走ってきて合図が出て蹴るまでに、一瞬躊躇して止まることを指す。日本人選手は動作がぎくしゃくするが、外国人はスムーズに蹴った。池上によると「彼らはボールを見ながらオシムさんを見るのではなく、オシムさんを見ながらボールが見えていた。でも、日本人はそれができなかった」と言う。
そんな実験も含め、オシムは日本人の弱点をよく知っていた。
「日本人は自分で責任取りたくないんじゃないの。だから背番号10は育つけど、センターフォワードやセンターバックが育たないだろう」
痛いところを突かれたと池上は思った。このようなメンタリティの違いは、日本にいるだけではわからない。特に中学校、高校と3年間で成果を出すために戦うサッカーでは育てるのが難しい。最後にゴールを仕留めたり、砦になるポジションの選手は勝つためにはミスできないためチャレンジしづらい。小さくまとまってしまう