患者のベッドや担架を運ぶのは看護師ではなく…

2023年初頭、中国各地でコロナの感染が急速に拡大しているとき、病院の廊下や玄関ホールにまでベッドや担架、車椅子を並べて点滴をしている様子を日本のテレビニュースで見た、という人もいただろう。玄関ホールに入り切れず、屋外で点滴をしている人もいた。

多くが高齢者で家族が付き添っていたが、中国では患者の家族が、患者のベッドや担架を廊下やエレベーターまで自ら運ぶ。17年、私は大連の大病院の玄関ホールで、患者が寝たままのベッドが、数十分間、置き去りにされているのを目撃した。

筆者撮影
2017年、大連の病院の玄関ホールで置き去りにされる患者

このように、中国では、感染爆発して病床が逼迫しているときでなくても、患者がぞんざいな扱いをされることは珍しくなかった。

また、中国の病院の特徴といえるのが、「VIP(中国語で特需=ターシュー)専用の診察室や病棟だ。政府の高官、富裕層、特定のコネを持つ人が利用できる診察室で、大混雑する一般外来と違って、ほとんど待ち時間なく、有名教授に診察してもらうことができる。

日本にも病院により最上級クラスの個室は存在する。ただし、日本では基本的に誰でもお金を払えば使用できるのと違い、中国では、どんなにお金があっても、使用できない場合がある。重視されるのは、病院や政府とのコネの有無だ。

外務省報道官の妻が薬不足を嘆いて猛批判

中国の大病院では、ロビーに病院の組織図や沿革、医師の顔写真と略歴が貼り出されている。その筆頭にあるのが有名教授だが、彼らに診察してもらえるのは一握りのVIPだけだ。

23年1月、「戦狼外交の顔」といわれた外務省の報道官、趙立堅氏が突然、国境海洋事務局に異動したことが日本でも報道された。急な異動の理由は明らかにされなかったが、噂では、趙氏の妻がSNSでコロナ感染の可能性と医薬品不足を嘆き、「解熱剤が手に入らない」と書き込んだことが背景にあるのでは、と囁かれた(その投稿はすぐに削除された)。

SNS上で「高級官僚の妻が、一体何をいっているのか。彼らが解熱剤を入手できないなんてことはあり得ない」「庶民のふりをして同情を買おうとしている」と猛批判を浴びた。

このエピソードからもわかる通り、中国で政府の重要な地位にいる人は、特権階級であり、VIPに相当する。公務員専用の病院もあるし、医薬品の特別な入手ルートがあるといわれているので、本当に薬がなくて困っていた国民は激怒したのだ。