「もつれた毛玉」を一つひとつ分解しないと良くならない

――事業再生の職業は経営者の仕事の中でも、最もハードなものだと思います。どのように取り組まれたのでしょうか?

【三枝】私は立て直そうとする会社に、一人で乗り込んでいきました。毛玉のようにもつれた組織では、市場で戦う有効な戦略を実行することができません。そのような停滞組織の内部に入り込んで、改革のシナリオを描き、実行にもっていくのが私の職業でした。

乗り込んだ先の会社では、私と共に改革を担うタスクフォースをつくります。事業の置かれた状況は難しく、外部の人間が気軽に入ってきて、すぐ立て直せる状況ではありません。会社にいる本人たちもその状況にのみ込まれています。しかし、私が率いたタスクフォースのメンバーたちは必死の立て直しの中で鍛えられていくのです。

私が立て直しを託されたその事業は1兆円企業のなかで、バブル崩壊後、不振のまま放置されていました。直近7年間は連続赤字で、累積赤字額は200億円以上にも達していました。まだ生かされているのがむしろ不思議でしたが、この事業はその企業の歴史において祖業であり、歴代社長が事業閉鎖を決断できなかったのです。

不振事業では必ず、病気の根っこを叩かないと事業はよくなりません。どうしていいかわからないほど病状が錯綜し、時間と赤字に追い詰められる中でも、問題の核心に迫らなければならない。タスクフォースが全力を挙げた調査・分析から、何が不振の真の原因なのかを見抜き、改革シナリオを作成していく。その改革はそれまでの社内常識の外にあるものなので、苦しいし、成功の保証もありません。だから、抵抗が起きます。

撮影=西田香織
三枝匡さん

社員に「あなた自身にも責任がある」と気付いてもらう

そういう抵抗が出てくるのも私にとっては「いつか見た景色」でしかありませんでした。

いくら優れた戦略を立てたとしても、その理解と実行が社員に共有されなければ改革は決してうまくいきません。

不振の会社では「あいつが悪い」「こいつが悪い」と、皆が同じ会社の他の部署や人の悪口を垂れ流しているものです。誰もが「自分ではなく他の人間に会社の不振の原因がある」と思っています。他人事なのです。しかし、繰り返しますが事業不振の原因に、自分個人がどう関わっているのか、個人的な因果関係が見えなければ、社員が痛みを覚えられないのは自然ではないでしょうか。

それを変えるために、「あなた自身にも責任がある」と視覚的に示し、気づいてもらう必要があるのです。

そのためには緻密な調査、膨大な分析、正確なロジックが必要です。事業全体の悪さを「論理的に分解」して、各部署にいる個人の役割と責任にまで「ひも付け」をしていく。この「強烈な反省論」の作成は至難の業ですが、やらなければなりません。