キャッシュフロー表を用いて資産状況の変化を可視化

江川さんは長男にこう切り出したそうだ。

「○○(長女)が離婚したことは、お前も知っているよな。来年の早い時点で、帰国して、この家で同居することになる。○○には働いてもらうつもりだけど、ダンナに裏切られて離婚することになったから、精神状態がかなり悪いらしい。しばらくは働けないかもしれない。○○が働けない状態が長く続くと、私たちが持っている貯蓄が底を突いてしまう可能性がある。貯蓄が底を突くのを回避するために、月に3万円から5万円くらいでいいので、お前も働いてくれないか」

話を聞いた長男は、しばらく無言だったが、「キャッシュフロー表を見せてほしい」と言うので、その日は長男に渡して、ゆっくり見てもらうことにした。

それから数日経って、江川さんは長男からキャッシュフロー表を返された。

「すぐに働くのは難しいけれど、このような表にしてくれたのでウチの状況がよくわかった。今までさんざん迷惑をかけてきたので、俺も働くための努力をしなくてはと思っている。どのような努力をすればいいのか、すぐにはわからない。でもこれから調べるので、少し時間が欲しい」

という内容の返事が返ってきた。長男なりに調べた結果、すぐにハローワークで求職活動をする勇気はないとのことで、就労支援をおこなっているNPO法人を頼ることになった。

長男が見つけたNPO法人では、あいさつの仕方や名刺の渡し方など、社会人として必要なマナーなども教えてくれる。15年以上、家族以外の人と食事を共にしていなかった長男にとって、当初は職場で昼ご飯を他人と食べることさえ苦痛だったらしいが、何とか挫折せずに通っているそうだ。春ごろには、就職活動を始めたいとのことである。

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肝心の職探しはこれからだが、私は江川さんにこうアドバイスした。

「息子さんには正社員にこだわらず、月に3万~5万円くらい稼いでもらえれば、数字的には成り立ちそうなんです。正社員を目指して運よく就職できたとしても、数カ月で辞めてしまったらやり直しになりますよね。私は実際に、正社員になったものの数日で仕事を辞めてしまい、前よりひきこもり状態がひどくなってしまった人を何人も見てきていますので、就職活動のハードルを上げすぎないように注意してくださいね」

実際のところ、親は子供が正社員を目指すと無条件に応援をするが、15年以上、ひきこもっていた現実を軽視してはいけない。正社員になることを目標とせず、1日でも長く働けそうな職場を見つけることに注力し、一方で収入ラインは低めに設定したほうが長続きしやすいのではないかと感じている。