何千ものホッキョクグマが人間を襲った…

この死肉から恐ろしい赤痢が蔓延し、7月1日の時点で生き残っていたのは16名に過ぎなかった。彼らは25人以上の死体を喰って飢えをしのいだのだった。

16名の生存者は、4匹の犬に引かれたソリで海岸を下った。マグフォード岬から約24マイルの地点で、激しい吹雪に見舞われた。一行が道を見つけようとしているうちに、25頭ないし30頭のホッキョクグマが彼らを襲い、2名を除く全員が喰い殺された。生き残った2名は無事にマグフォード岬に辿りつくことができた。

何千ものホッキョクグマがペニーランドから渡ってきて、オコックの貯えを略奪し、墓を掘り起こし、死者をむさぼり食い、人間を襲った。

クマの大群は、広大な地区を荒廃させ、そこに暮らしていた住民は集落を捨て、飢えに駆られて漁港に群がり、クマの群れに追われて、多数が喰い殺された。

アザラシ漁の中心地であるホープデールも、食糧不足とクマやオオカミの襲撃に悩まされた。過去2カ月のうちに、150人以上が寒さや飢餓、そして野獣の餌食となって命を落とした。

飢えに狂った男たちは、死んだ仲間の残骸をめぐってクマと戦ったが、クマにとってはエサが2倍になっただけだった。(The weekly Union times. August 13, 1886)

写真=iStock.com/ZU_09
何千ものホッキョクグマが人間を襲った…(※写真はイメージです)

「飢餓に関する報告は間違い」ニューヨーク・タイムズが報じる

一方でこの事件の真偽は疑わしいという報道もあった。

ニューヨーク・タイムズは、「THE PEOPLE NOT STARVING.」の見出しで、

「植民地で最も信頼できる人物の1人である牧師モーゼス・ハーベイから受け取った電報によると、ラブラドールとニューファンドランドでの飢餓に関する報告は間違いだ」(New York Times Aug. 1, 1886)

と報じた。