「育休中に学んだ人は両立への自信が高まる」
今は女性側だけが焦燥感を味わい、自助努力で育休中に学んでいる。この状況に対する支援はないよりもちろんあった方がいい。ただ自分の時間やエネルギーを学びに費やせるかどうかは、それぞれの雇用形態や子どもの状態、育児へのサポート体制など深く関わっている。
そもそも非正規雇用やフリーランスの人には「育休」すら取れない現実があり、「育休中のリスキリング」が正社員中心の考えだと反発されるのは当然だと思う。
そんな中、1本の注目すべき論文が発表された。筆者は静岡県立大学の国保祥子准教授。国保さんは2014年から、育休中の女性たちに学びの場を提供する「育休プチMBAプログラム」を実践してきた。受講後の女性たちに明らかな変化が見られたことから、16社の社員の協力を得て、育休中の学びが復職後にどのような影響を及ぼすかを研究した。
結論から言えば、「育休中に学んだ人は復職後の両立生活に対する自信が高まり、その結果上司から見てもわかるほどに組織やチームを意識した行動を取るようになる傾向がある」ということがわかったという。
会社側は「働く母親たちは意欲がない」
いまだに第1子の出産による退職は5割近くいるものの(2018年内閣府調査)、正社員では育休からの復職率100%という状態は大企業を中心に珍しくなくなってきた。辞めずに働き続けられる環境は整いつつある。辞めずに働き続けられる環境は整ってきたということだ。
だが、ここ数年国保さんの元には、企業サイドから「復職はするけど、キャリアアップを意識しなくなる」「自分の仕事を終えることだけに集中しがちでチームに貢献しなくなる」という相談が増えていたという。復職者が増えたことで、特別扱いもできないという悩みも増えている。
私自身は、それは女性の意識の問題だけでなく、受け入れる職場側にも問題があると思っているが、少なくとも会社や上司はそう見ているという現実がある。女性側にも復職後は両立するだけで精いっぱいでキャリアを考える余裕がないという事情もあるだろう。そこだけを捉えて、会社や上司が、復職後の女性は「キャリアに前向きでない」「意欲がない」と考えるのはもったいないと感じてきた。
さらにこうした上司の思いは女性たちにも伝わる。自分が職場で「お荷物」扱いになっているのではないか、という思いが自己効力感の低下につながり、さらに女性たちがキャリアを諦める要因となる。上司と復職後の女性たちはお互い不信感を募らせ、女性たちの中には、転職や離職をしてしまう人もいるだろう。