研修を受けた人は「私は」から「会社は」へ

国保さんは協力企業16社から自発的に育休中の研修に参加してくれた約100人と、参加しなかった人たちを比較することで、研修の効果を測定した。

研修は1回2時間を4回。ユニークなのは研修内容だ。子どもが急に熱を出して保育園から呼び出しがかかったらどうするか、という実際起こりうるケースを基に、当事者である女性自身の視点だけでなく、上司や顧客、同僚などになりきって考えるという内容なのだ。

国保さんは、「自分を取り巻く全ての人の視点で考えるということをするだけで、最初は『私が』という主語でしか考えられなかった人が、研修を重ねるごとに『組織は〜』『会社は〜」という主語で考えられるようになる」という。この他者の視点の取得という研修によって、上司は自分たちが考えているほど復職者に対してネガティブな感情を抱いていないことがわかってくるという。

また大変なのは自分だけだと思い込んでいたのが、より俯瞰的な視点になることで、困っているのは自分だけではないから、どうしたら自分だけでなく同じような立場の人が働きやすくなるか、もしくは周囲の人に対してどう振る舞えばいいかも理解していくという。

自分以外の選択肢に気づくと、自信につながる

研修当初、参加者に「復職者は会社から期待されていると思うか」という質問を投げかけると、3分の2が「期待されていない」と答えていたという。それほど、育休から復職する女性たちの自己効力感は低いのだ。

「それが、具体的に直面するケースを事前に予習することで両立不安を払拭できる。さらに復職前は全てを自分でやらなければと思い込んでいる部分も多い。子どもが病気というケースでも、夫に保育園に迎えにいってもらうという選択肢すら考えつかない人もいるのです。それが『自分が〜』という主語から離れることで、他にも選択肢があることに気づく。結果的に、これだったらできるという自信につながっていくのです」(国保さん)

だが、重要なのは復職する女性だけの意識が変わっても、会社側の受け入れ体制が変わらなければ復職後にその意欲は空回りすることになるどころか挫折感につながるだろう。

国保さんの今回の研究は、協力企業の人事部を通じて、育休中の社員に案内してもらったという。