高校時代のいじめで男性恐怖症に

外来で投薬を勧めたところ、橋本さんはいやいやながら承諾をした。服薬を開始しても、すぐには彼女の状態に変化はなかった。外来受診時には、「前と同じように悪口を言ってくる人がいる、挑発してくる人がいる」と述べ、これ以上ひどくなったら警察に行こうと思っていると話すのだった。

その後も、彼女は数年間にわたり精神科の受診を継続した。当初ストーカーに対する確信は揺るぎの無いものであったが、それは数カ月かけて次第に薄らいでいった。橋本さんは、中学から高校にかけておとなしい性格で、「赤面恐怖症」だったと述べた。同級生からいじめを受けたこともあり、当時から男性恐怖症の傾向がみられたという。

通院を続けてストーカーに対する訴えは少なくなってきたが、それでも夫に対する不信感は持続していた。夫は何かを隠しているに違いないと橋本さんは述べた。だが詳しい内容を聞いても、それ以上はわからないと言うだけであった。

駅や電車で怒鳴り出す

彼女に対する夫の態度は、冷淡とは言えないまでも、かなり距離をとったものだった。このような夫婦間の冷淡さは長い年月にわたって続いていたもので、さらにどこか妻を見下すような態度も相まって、橋本さんには夫に対する否定的な思いが、基本的な感情として大きくなっていったのかもしれない。

橋本さんは実家のある埼玉県まで、片道1時間以上の時間をかけて、認知症の症状が出始めた母親の世話をするために、週に1回のペースで通うことになった。その道すがら、駅や電車の中などでおかしな動きがあると言う。通りがかりにわざとぶつかってくる人もいる、電車の中でも、どうみても不自然な動きをする人をよくみかけるという。自宅の前で、不審な人をたびたびみかけて、相手をにらみつけたこともあった。

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カギに関するトラブルもあった。自宅にいるとき夫から連絡があり、会社の社屋のカギを訪ねてきた社員に渡したが、後で夫は会社にいたことがわかり、カギを渡した理由がわからずに不審に感じた。また自分のキーホルダーからカギが抜き取られていたこともあった。真相は不明だが、彼女は夫の嫌がらせに違いないと感じていた。

通院を開始してから、自宅において「おかしな」出来事が起こることは少なくなったが、実家に行く道すがらのトラブルは変化しなかった。地下鉄の中では、いつも自分の方を見る人物がいた。無視していたほうがよいとわかっていても、2、3人から写真をとられたときには、思わず「バカ」と怒鳴ってしまった。