つまり、優先エレベーターで優先者を優先する、という行動は以下のことが要求されると言えます。

・優先エレベーターの譲り方の知識と「譲ろう」という意識を持っていること
・見知らぬ人たち同士、複数による臨機応変の連携プレー
・俊敏な判断と実行力

これはかなり高度で難しいことです。

だけど国土交通省のポスターには「お先にどうぞの一言を」とか「エレベーター以外の移動が難しい方がいます」とか「優先利用にご理解ください」という文言だけが載っています。具体的にどうしたらいいか、は書いてありません。

街にある優先エレベーターも同様で、お客さんたちの「ご協力」と「ご理解」にすべてを委ねている状態。

この呼びかけのみで、あの難易度激高な連携プレー技をみんなにやってもらうというのは、とんでもなく無理があります。

「乗ります」アピールも難しい

ネットを見ていると、「車椅子ユーザー、ベビーカーユーザーが『乗ります』と声をかければいい」とか、「グイグイ乗りますアピールをすればいい」いう意見もよく見ます。

しかし実際それは、中に乗っている人たちへの「あなたが代わりに降りてください」「次のエレベーターを待ってください」という意味になります。

電車やバスなら椅子を譲って座れなくなったとしても「目的地まで移動すること」まで譲ることにはなりません。しかしエレベーターで譲るというのは「目的地まで移動すること」自体を譲ってもらう、ということになります。それも言いづらさに大きく関わっています。

イラスト=田房永子

ほとんどの人にとって、「この方に譲るために、私だけではなくあなたも降りましょうよ。次のエレベーターを待ちましょうよ」と全く知らない人に声をかけるのは難しい。優先者にとってもそれは全く同じで、これほど言いづらいことはない。言いづらいからこそ、優先エレベーターという存在があるわけだし。

動作自体が複雑で、状況的にも難易度が高い、さらにそれを誰も習ったことがない。そんな要素が重なって結果的に、誰も悪意がないのに「優先されるべき人が優先されない」という悲しすぎる作業をみんなで成し遂げちゃっている、それが現状ではないかと思います。

指示されると動けるが…

今年3月、大阪の阪急うめだ本店では優先エレベーターに優先される人が乗れるよう、店員が「優先の方が来ましたので他の方は降りてください」と声をかけて降車を促している、という記事がニュースになっていました。

店員や駅員ポジションの人から指示されるとみんなサッと動ける。それでも「なんでそんなことを指図されなきゃいけないんだ」となってしまう人もいるようです。

譲り方はもちろん、必要性すら教わっていないので、優先エレベーターを使用しないとならない経験のない人の中には「そもそもどうして優先しなきゃいけないんだ」という感情が生まれるのも致し方ないのかもしれない。