エレベーターを譲ることの難しさ

優先エレベーターを譲るのは、なぜ難しいのか。

例えば「優先席」は、1人の高齢者が乗車してきたら、1人の乗客が1人分の席を譲る、という動作で済みます。

だけど優先エレベーターで1人の車椅子または1人のベビーカー利用者に譲るためには「スペースを空ける」という行動が必要になります。少なくても2人、場合によっては3人か4人ほどが降りるか、乗ることを控える、という動作が必要になるわけです。

まず、この2~4人全員が「車椅子またはベビーカーユーザーはエスカレーターや階段が物理的に使えないから、譲るべきである。そしてそれを私は実行する」という意識がないとその行動になりません。

さらに難しいのは、この意識がある人が3人いたとしても、それで良いわけではないこと。その3人が空けたスペースに、全く別の人がやって来て駆け足でスッと乗ってしまうことがあります。その駆け足で乗ったのが1人であっても、車椅子またはベビーカーが乗ることのできる広さが欠けてしまうので、車椅子やベビーカーは乗れなくなってしまうのです。

イラスト=田房永子

2人が降りてスペースを空けてくれて、車椅子またはベビーカーユーザーが乗り込もうとしている間に、悪気なく別の1人が乗ってしまい、「あ……」と思ってるうちにドアが閉まって上に行ってしまう。そういう光景は実際にしょっちゅうありました。

この場合の「悪気のない別の1人」にとっては、「エレベーターに乗っただけ」のこと。車椅子やベビーカーユーザーはエレベーターを待つ時、人の出入りの妨げにならないよう、ドアのギリギリ近くまで寄らないことが多い。スペースを譲ってもらうには複数の人がドアから出なければいけないわけで、その時に入り口をふさがないよう、少し離れたところにいる。その様子を「乗るつもりがない」と判断されてしまうことが多々あるように感じます。

電車やバスの「優先席」との違い

電車やバスの優先席は、私たち40代世代も子どもの頃からそれとなく「席を譲りましょう」と教えられ、譲る大人たちのやり方を見たり、議論したり模索する機会がありました。優先席はそういった土台がある上に、次の停車までの数分の猶予があります。考える時間や動作までの決意の時間が少しとれます。

しかし優先エレベーターは、利用者が操作する「ドアの開閉」に出発のタイミングのすべてがかかっています。

だから満員のエレベーターに途中階から優先者が乗ろうとしていることが分かっても「えっとこれは譲るべきなのか?」と思っている間にドアが閉まってしまうこともある。

優先エレベーターを譲るには、優先席よりもさらに強めの瞬発力と機動力が必要なのです。さらにそこでその力が自分1人にあっても、他の人が察してスペースを空けることに協力してくれなければ、車椅子やベビーカーを乗せることなくそのエレベーターのドアは閉まります。