「貯蓄から投資」ではなく「貯蓄から消費」が必要だ
日本経済を良くするには、どのような金融政策を取ればいいのか。鍵を握るのは個人金融資産だ。1980年代後半に700兆円だった個人金融資産は、2021年末に2000兆円を突破。そのうち半分以上は現預金として眠っている。これは不思議な現象だ。日本は低金利で、定期預金にしても金利は0.01%。仮に1000万円の預金があっても利子は年にラーメン1杯分だけ。そんなところで資産を運用するのは世界的に見て日本人だけだ。
日本人が貯蓄好きなのは終戦後の教育の影響が大きい。小学生時代、私はこう教えられた。
「資源のない日本は、勤労が一番。海外から原料と資材を輸入して、一生懸命働いて付加価値をつけ、輸出して稼ぎましょう。稼ぎの半分は次の材料を買うために使い、残りは食べるための食料を輸入します。余った金はすべて貯金してください」
このときの価値観がいまも日本人を支配しているのだ。当時を知らない若い世代にアンケートを取っても、「老後が不安」が必ず上位にくる。日本は安全で暮らしやすく、医療保険は世界一で充実している。しかし、それでも心配で貯蓄に走ってしまう。結果、日本人は死ぬときに平均3000万円も現預金を残していく。イタリア人が「自分が死ぬときにお金が残ったら人生失敗」と考えるのとは対照的だ。
さて、政府は「貯蓄から投資へ」という方針を打ち出して金融市場を活性化させようとしている。しかし、NISAを拡充したところで日本人の貯蓄大好きメンタリティは変わらない。必要なのは「貯蓄から消費へ」。眠っている現預金を消費に充ててもらい、経済を直接回すのである。
では、どうすれば現預金を消費に回してもらえるのだろうか。実は無理して定期預金を解約させる必要はない。金利を上げて、その利子を消費に回してもらえばいいからだ。
高度成長期から80年頃までの金利は5~7%。当時と同じ水準で金利を5%に引き上げると、個人の現預金1000兆円の利子は年50兆円になる。
現在、利子には約20%の税金がかかるが、金利を引き上げれば受け取る利子の額が大幅に増えるので、そこから金利課税として半分を徴収しても文句は出ない。それで税収は25兆円増える。一方、いまの日本の税収は50兆円前後。例外なく消費税10%という付加価値税をやればGDP500兆円の10%で50兆円になり、金利税と消費税を合わせて75兆円。現在の税収を大きく上回っており、これで歳入は問題がない。
利子を半分徴収しても、国民の手元にはもともとの現預金と25兆円が残る。元金はそのままで、歳入に余裕があるから社会保障は削られない。これなら心配性の日本人も25兆円を消費に回せるはずだ。これが政府と日銀が取るべき財政金融政策である。これと正反対の「アベクロ政策」が日本を奈落の底に突きやった、と私は考える。