ロースハム、チャーシュー、角煮…加工品は60種類超

肉質に対する探究心もさることながら、特筆すべきは自社開発する無添加にこだわった加工品の豊富さだ。

みそ漬のほかに、塩こうじ漬、水餃子、ベーコン、ウィンナー、点心、炭火焼、ロースハム、アイスバイン、チャーシュー、ボロニアソーセージ、スペアリブ、角煮、スモークジャーキーなど、商品アイテムは60種類以上あり、日々新商品の開発を続けている。

ここでいう「無添加」とは、主に亜硝酸Na、リン酸塩、アミノ酸といった、肉の加工によく使われる添加物を使わないことだという。

日ごろ、工場や催事会場の売り場に立つ浩美さん(41)、丈菜さん、潤子さん(37)の3姉妹に、その特徴を語らせたら止まらない。

「私たちはいいお肉を作るために黒豚を飼っているから、生きている間に100%の幸せをあげたい。いい環境で身体にいいものを食べさせて、いいお肉になってね、その後大事に使うからねと思って育てています。だから、加工品にしてもあまり手を加えたくない。

お肉そのものに弾力があって保水する力が強いので、解凍しても水分が出にくいし、結着剤になるリン酸塩を使わなくてもちゃんとウィンナーやハンバーグが作れる。お客様には、そういうことを伝えています」

だれもやらない「隙間」を狙いにいった

家族経営の畜産農家が養豚から製品の加工、販売まで一貫して手掛け、しかも出口を百貨店に絞って30年商売し続けてこられたこと自体、奇跡のような話だ。

細かすぎて大手にはできず、人手がかかりすぎて同業者にもなかなか真似のできない、特異な事業領域だといえる。桒水流会長は手間も人手もかかることを承知の上で、最初からその「隙間」をあえて狙いにいったという。

「近くの南九州にも、私たちよりずっと大きい農場を持つ養豚農家はたくさんあります。でもその多くが1頭70kgとか75kgとか、まとめてトン換算で枝肉を販売するような形態。枝肉から加工して製品になっていくにつれ、中間の卸業者が入って利益を乗せて末端の消費者まで届けられるのが一般的な流れです」

「でもうちは、30年前から百貨店でグラム単位の商売をしてきた。自前で生産と加工をやっていて、中間で利益を抜かれることがないから100グラム単位の細やかな商売ができる。百貨店の売り場で受けるお客さまの要望は本当に細かいですよ。部位別に小分けして、加工してと、お客さまが欲しいというものに応えることができた。その積み重ねの違いが、今の自分たちなのだと思っています」

筆者撮影
百貨店の催事会場で売り場を切り盛りする太田德尚社長