父の教えは娘から娘へ

ソーセージやベーコンなどで「無添加」の商品というのはほとんど世に出ていなかった時代。お客さんに「色が悪い」「茶色い」と言われると、「原料のお肉を生かしたいから、おいしくて安全でいいものを、本物を食べてもらいたいから、余計なものは入れないんです。食べてみてください」と試食を促す父。

催事の手伝いを通して「父の後ろ姿、生き様を見せてもらった」と丈菜さんはいう。

「宮崎の小林から飛行機と電車を乗り継いで、名もない豚を売っていくのは大変だっただろうなと思う。大人になるにつれ、父と母がずっとやってきたことの思いがわかるようになった。自分たちに今与えられている環境を、こうしてつくってきてくれたんだなって、年々感謝の気持ちが強くなっていきます」

当時まだ高校生だった三女・潤子さんに、今度は丈菜さんが諭すように接客や手伝いのやり方を教える側に回った。

「私たち3姉妹がすごいのは、お客さま一人ひとりの顔や服装、お肉の好みを覚える能力があることなんです。1年前にきたお客さまが何を買ってくださったのか覚えているので、次にきた時にちゃんとお礼を伝えることができる」と潤子さんはうれしそうに語る。

経営コストの6割を占める飼料価格が重石に

2009年には丈菜さんが、長崎の食品メーカーに勤めていた太田德尚さんと各地の百貨店催事を通して親しくなり結婚。2021年には、太田さんが桑水流畜産の社長に就いた。

「自分のところで育てたお肉に自信を持って家族全員で商売をしている。跡取りがいなかったら1代で終わると聞かされた。微力だけど、自分も自信を持ってやれる仕事がしたいという思いが強くなり、継ぐ覚悟で結婚を決めました」と太田社長はいう。今、催事の売り場には、太田社長の姿がある。

桑水流家に19歳で嫁いだ桒水流美穂子さん(右)と、丈菜さんと結婚し36歳で社長を継いだ太田さん
写真提供=桑水流畜産
桒水流家に19歳で嫁いだ桒水流美穂子さん(右)と、丈菜さんと結婚し36歳で社長を継いだ太田さん

とめどなく押し寄せる危機に、一枚岩で立ち向かう家族の姿こそ、桑水流畜産の経営の真骨頂だ。だが、経営コストの6割を占めるという飼料価格の高騰は、かつてないほど大きな重石となって、行く手を立ち塞ごうとする。

現在の飼料価格は2019年に比べ年間約7000万円ものコストアップにつながっている。業界団体の基金からの補塡ほてんで4割の補助があるが、約4000万円が負担としてのしかかる状態だ。