桑水流黒豚は「キターーー! って感じですよ」
素材に強くこだわる福島屋や秋川牧園を唸らせた、桑水流黒豚のおいしさ、生産体制の独自性はどこにあるのだろうか。
温泉通の人々の間で知られる鹿児島県霧島市の高級旅館「妙見石原荘」の料理長・松本大樹さんも、熱心な固定客の一人だ。料理長に就任した4年前に極上の黒豚を求めて南九州の各地を訪ね歩き、桑水流黒豚に出会った。それ以来、和食の食材として、日々の仕入れを欠かさない。
「桑水流さんのお肉に出会った時は、キターーー! って感じですよ。肉質が柔らかく、脂が甘い、コシがあって、臭みが少ないという黒豚の良いところを満遍なく満たしている。一口に黒豚といってもピンキリで、こんなレベルのお肉にはそうそう出会えない」と松本料理長はいう。
「飼育環境と餌の違いが肉質にはっきりと表れる。桑水流さんは全国的に黒豚が認知されていない頃から、よその県に売りに出て、他の豚との違いをしっかり示してきた。その成果がブランドになったのだと思います。全国から旅館を訪れるお客さんには『これが本物の黒豚です』と胸を張って紹介しています」と語る。
人工授精はせず、井戸を掘り、クラシック音楽をかけて…
父親から引き継いだ野菜栽培と畜産の兼業農家を、桒水流さんが黒豚専門の養豚業としてスタートしたのは今から30年前。
「自信の持てる製品を作り、自分で値段をつけて販売したい」と、生産から加工、販売、営業を自ら手と足でこなしてきた。黒豚を専業に選んだのは、「おいしいし、育てるのが難しくて、あまり他の人がやりたがらないから」(桒水流会長)。
豚舎を訪れると、その心配りがよくわかる。清掃が行き届き、小屋は豚が駆け回れるほどの広さがあり、桒水流さんが近づくと一斉に駆け寄って鼻を近づけ、後を追いかけてくる。「人間と同じでリラックスできるのではないか」と、クラシック音楽を聴かせている。
純血種の黒豚は、白豚の三元豚より出産頭数が少なく、病気にも弱い。ストレスを与えない生育環境をいかに整えるかが、生産者の腕の見せ所だ。手がかかる分、コストとして跳ね返ってくるが、他の人がやりきれないところで価値を起こし、出口を求めていくのが、桒水流浩蔵流の経営感覚。
一般の豚は人工授精の後、生後6カ月程度で出荷されるのに対し、桑水流黒豚はすべて自然交配で種付けし、9~10カ月かけてじっくり育てる。餌には九州特産のさつまいもの粉末に、酵母や茶葉、炭粉、海藻などを混ぜた独自の配合飼料を与えている。
口蹄疫の風評被害で経営がダメージを受けた時にも、肉質をさらに追求しようと、新たな設備投資で農場敷地内に井戸を堀り、名水百選にも選ばれる霧島山麓の伏流水を地下120メートルから汲み上げて豚に与えるようになった。