刑務所が孤独な高齢者の「居場所」になっている現状
もうひとつ驚いたのが、女性の副看守長の次の言葉だ。
「刑を終えて社会に復帰しても、家がない、出迎えてくれる人もいない。ならば刑務所のほうがいいと、何度も戻ってきてしまう高齢者が多い」
犯罪で多いのは万引きなどの窃盗で、経済的困窮はもとより、「寂しかった」などの理由で罪を重ねるケースが目立つとも聞いた。
これは福祉施設や住宅整備が十分でないなど、ハード面の政策の貧しさからくるものなのだろうか。それとも、孤独や孤立など、ソフト面のニーズに対する政策の不十分さからくる結果なのだろうか。刑務所が高齢者の「居場所」になっていいはずがないと、当時、強く思ったのを覚えている。
悪い犯罪者というイメージとは異なる受刑者たち
福島を訪れた後、編集局の部長職となり、自分で取材する機会がなかなかなかったが、2017年、編集委員となったのを機に刑務所取材を再開した。高齢の女性受刑者はその後どうなっているのだろうかと、ずっと気になっていたからだ。ほぼ10年ぶりに福島刑務支所を再訪し、その他の女性刑務所も訪れた。
そこでわかったことは、高齢受刑者の割合は増え、刑務所の福祉施設化はますます進んでいるということだった。
刑務所のイメージが、世間一般がもつものと随分様変わりしていることも実感した。一般に、「刑務所」というと、男性、しかも暴力団ややくざなど、屈強で極悪非道な男性が服役しているイメージが強いのではないかと思う。統計を見ると、今から約30年前、1990年には、新規に刑務所に入る受刑者の約4人に1人(24.7%)が暴力団関係者だった。
それがどうだろう、今ではその割合は約25人に1人(4.2%)にまで減っている。反対にこの30年間で割合が増えたのが女性で、受刑者全体の1割を占め、しかも65歳以上の女性が顕著に増えている。男女あわせた65歳以上高齢者の割合は約13%と、約30年前の10倍に増えた。さらに、受刑者全体(男女計)の約2割は知的な障害をもつ可能性が高いともいわれている。「極悪非道な大犯罪人」とはだいぶ異なる印象のデータが並んでいるのが現状だ。