土地を売るより、草刈りのほうが儲かる
こうした事情から、草刈り業者の中には、不動産業者として県知事免許を保有し、管理地の売却・仲介業務を兼務するところもある。彼らの本業はあくまで草刈りであり、継続的な収益が見込めるのもその業務である。不動産仲介業は「兼業」しているにすぎない。
仮に不在地主から草刈りを依頼された土地を底値のような価格で売却しても、わずかな額の仲介手数料が一度発生するだけだ。そのうえ顧客をひとり失うことになる。そうなると、どうしても仲介に不熱心な業者が出てきてしまうのは想像に難くない。
例えば、筆者の近所にある空き地の地権者は、30坪の土地に、一度の草刈りで約3万円の作業賃を支払っているという。業者は複数人で足を運び、専用の機械で草を刈り、完了後には写真つきで報告書を送付する。料金は土地の広さや地形によっても変わるので一概には言えないが、作業内容を見れば妥当な料金だろう。
作業は通例、一つの土地について年2回行うので(都度作業を依頼するのではなく、継続的に作業を行う契約がある)、1区画につき単純計算で年間6万円の利益が発生することになる。
仮にその30坪の土地を、30万円で売却の仲介を行った場合を考えてみよう。業者の利益となる仲介手数料は、買主側からはわずか1万5千円しか徴収できない(法定手数料で計算した場合)。
売主側からは、現行の法律では、物件価格にかかわらず最大で18万円(税込19万8000円)を徴収できることになっているが、売却代金の3分の2を占める手数料を、売主に承認するだろうか。
本当に売る気があるのだろうか
もちろん、それでも良いのでなんとか売ってくれ、と頼む売主もいるのだが、多くの売主はあまり良い顔をしないだろう。それでもなんとか仲介を行いたいと考えれば、売主側の手数料の額を下げるか、粘り強く手数料の上限額を支払ってもらえるよう交渉を続けるしかない。
そんな面倒なことをするくらいなら、今のまま草刈りの契約を継続してもらったほうが良いと考えるのは自明の理である。
ましてや今の時代に限界分譲地の区画を購入する方は、ほぼ間違いなく投機目的ではなく、自身で何かしらの使い道を考えているはずだ。新たな買い手からも、前所有者と同様に草刈りの依頼を受けられる望みは薄い。草刈り業者も商売である以上、本業を優先する判断そのものは決して責められる話ではないだろう。
そのため「格安土地の専門店」としての地位を築くべく、詳細な売地広告を自社サイトで豊富に掲載している草刈り業者も確かにある。一方で、成約できるか疑わしいほど宣伝に不熱心な草刈り業者も存在する。