両者ともトップの座に慣れていた。その頃までに、ジョブズはIBM、マイクロソフト、アドビを相手にずっと戦ってきた。それだけでなく、リーダーとしてのジョブズには、RIMに勝る決定的な利点があった。RIMにはラザリディスとバルシリーというふたりのCEOがいる。リーダーがふたりという体制は平時には良いことだったが、アップルとの戦いで、内在する欠陥が浮き彫りになった。

共和政ローマでは、ふたりの執政官が権力と役割を分け合った。ところが、危機が起こると、脅威にすばやく、断固として立ち向かうために、元老院はひとりの独裁官に絶対的な権力を与えた。RIMの社内規定では、そうしたことが許されなかった。

iPhoneが勢いを増すと、ラザリディスとバルシリーの関係が悪化し、緊張が生まれた。オフィスを分け合う仲だったふたりは、ほとんど口をきかなくなった。RIMの取締役会に近いひとりが、この緊張を間近で見ている。

ウォータールーにあるブラックベリー本社(写真=Michael Pereira/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

アップルの猛追、RIMは小競り合いに明け暮れる…

試練のひとつは、RIMが傲慢になりはじめたことだ。その傲慢さは成功から来ていた。マイクよりもジム〔バルシリー〕のほうがその影響をより強く受けたと言える……やがて、ジムは話を聞かなくなった。

億万長者で、ほかの誰よりもわかっているので、自分自身の声を聞くのが好きだし、ほかの人の話を聞いたり、フィードバックを受けたりしたくはないのだ。

どんな競争圧力に対しても、提案に対しても「いったい何を言っているんだ。われわれはブラックベリーだ。それをわかっているのか?」……この傲慢さが本当に、本当に会社を痛めつけたのだと思う。

さらに悪いことに、RIMの取締役会は、必要なときにどちらのCEOにも抵抗できなかった。傲慢で知られるジョブズでさえ、取締役会の声には耳を傾け、助言を受け入れることもしばしばあったと言われる。

RIMが内輪の小競り合いに明け暮れる一方で、アップルは着々とiPhoneを改善していった。発表当時に欠けていたのは、サードパーティーのソフトウェアを使える機能だった。

ジョブズが、ソフトウェア開発者がiPhone用のネイティブアプリケーション〔パソコンやスマホなどで、その機種の端末に直接アクセスし、実行可能なプログラムによって作成されたアプリ〕を作成できるようにするキットを公表すると、水門が開かれた。iPhoneの特徴と広いユーザー基盤を利用しようとするソフトウェア開発者によって、多くの独創的で便利なアプリケーションが生まれた。

均衡を破ったマイクロソフトによるサポート

2008年7月、アップルは、マイクロソフトエクスチェンジのサポートを導入し、ブラックベリーの企業向け市場のポジションを狙いはじめた。

マイクロソフトエクスチェンジは「プッシュ通知」を可能にする。つまり、新しいメッセージが届くとすぐにiPhoneに通知が来るので、メールの着信を確認するためにわざわざアプリケーションを開く必要がなくなるということだ。