米シンクタンクのスティムソン・センターは、自身が運営する北朝鮮分析サイトの「38ノース」を通じ、「北朝鮮の対外プロパガンダが、近代化への一歩を踏み出した」と見て警戒を強めている。

現在、ソンAちゃんのチャンネルは登録者数2万人程度、ユーミーさんのチャンネルは1万人程度だ。しかし、北朝鮮がプロパガンダに用いているアカウントのなかには、数十万人の登録者を持つものも出てきているという。

同シンクタンクは「(YouTubeを使うという)この驚くべき動きは、かつての北朝鮮であれば考えられなかったが、北朝鮮の海外プロパガンダを21世紀らしい形に進化させる戦略の最新の取り組みであり、成功の兆しを見せているのである」と警鐘を鳴らしている。

YouTube側が動画を削除できないワケ

インサイダー誌は、数年前にも北朝鮮はプロパガンダのオンライン化に取り組んでいたが、多くはニュース番組のような形式であったとしている。プロパガンダだと疑いにくくする目的で、個人Vlogへとスタイルを変化させたようだ。

こうしたYouTube動画には、完全な嘘とは言い難い面もある。そのため厄介なことに、ガイドライン違反として削除しにくい。シドニー大学のウン・アー・チョ教授(韓国学)はnews.com.auに対し、平壌は特権階級の街であり、単なる労働者でなく都市内に住居を持てるような限られた人々であれば、動画のようにある程度裕福な暮らしも可能だと説明している。

ただしチョ教授は、「しかし、農村部の人々を考慮するならば、(動画のような生活は)普通の生活ではありません」と述べ、一部を切り取ったプロパガンダだと指摘している。

過去に北朝鮮が展開してきたプロパガンダは、見抜くことが容易であった。名物アナウンサーが大仰な調子でニュースを読み上げ、大々的に国家を賛美するスタイルが代表例であった。

北朝鮮中央駅前の北朝鮮CNN(2014年)(写真=Thomas M. Rösner/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

ところが政権は、より近代的なアプローチを探っている。知らぬ間に世界のYouTubeユーザーが魅了されるようなコンテンツも登場し始めた。

ニュース風のプロパガンダより効果的

現状、効果はてきめんだ。前掲のプルコギ動画のコメント欄では、鴨肉を試してみたいなどの意見が多く寄せられており、プロパガンダを疑う声は少なくとも目立つ位置には表示されていない。多くの視聴者はグルメ動画に目を奪われ、北の工作であるとは夢にも思っていない様子だ。

また、YouTubeでは、動画に対して肯定的なコメントが上位に表示される仕様となっている。元は荒らし対策だったが、皮肉にもこうしたしくみにより、プロパガンダだという指摘コメントが目立ちにくくなっている面もあるだろう。