死後2カ月経って「本当にこれでよかったのか…」
患者さんの最期は、自分の望んだ自宅でした。在宅医の先生は彼女に「よく頑張りましたね。泣き言も言わず、頑張って介護をしてくれたのでご主人は安らかな最期でした」と話しました。
それから2カ月後、その在宅医の先生から「奥さんの食欲が落ち、夜も寝られないらしいので診察してくれませんか」と電話がありました。
私は遺族外来で、彼女の話を聞きました。「夫は希望通り最期まで家で過ごせてよかった。でも、やっぱり怖かった。家で夫を看取ったことが本当によかったのか、私はいつも自問自答しています。夫が寝ていたベッドを見ると、夫の声が聞こえるような気がします。夫と暮らし、そして夫が亡くなった家で、もう私は穏やかな気持ちで暮らせません。家にひとりでいるだけでつらいんです」と泣きました。
その後、私は彼女にうつ病の治療を行いました。彼女は1年経って、ようやく立ち直りかけています。
「泣き言は言わない」我慢の積み重ねがうつ病に
対照的な二つのケースを紹介しました。この二人は何が違っていたのでしょうか。
前者の方は予期悲嘆が強く出て、ご主人が亡くなった後は悲嘆がほとんど出ませんでした。後者の方は予期悲嘆はありませんでしたが、その後の悲嘆がとても強くなり、うつ病にまでなってしまいました。
大切な人が亡くなる悲しみは、お二人とも強く感じていたはずです。しかし、後者の方は自分が泣き言を言ってはいけないと最後まで気丈に振る舞っていました。その我慢の積み重ねが、のちに身体と心に現れてしまったのです。