ウクライナ侵攻下の「SNS戦争」

ディープフェイクの技術はポルノや詐欺など様々な用途に悪用されうるが、想定される中で最悪なものが戦争への利用だろう。つまり、情報戦において「リアルな視覚的デマ」を作る武器として使われるということである。そして、そのような事態は起こってしまった。

写真=iStock.com/Tero Vesalainen
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2022年2月24日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まった。これはSNS時代初の戦争である。

SNSは現地の様子を伝え、遠隔の人々をつなぎ、支援の輪を広げる役割を果たしているが、フェイクニュースやプロパガンダを増幅する役割も担ってしまっている。実際、「ウクライナの戦争はでっちあげで、民間人の犠牲者は俳優たちが演じているのだ」というデマも広がった。その証拠として拡散された男性と女性が顔に血糊を塗る動画は、2020年のウクライナのテレビドラマで撮影されたものだった。

2022年3月上旬、ロシアはフェイスブック、インスタグラム、ツイッターなどの主要なSNSへのロシア国内からのアクセスを遮断した。ただし、ユーチューブだけは例外で、いまだにロシア国内では欧米の動画が視聴できる状態が続いている。この理由についてウォール・ストリート・ジャーナルは、ユーチューブに匹敵するロシア系の動画サイトがないため、ブロックすると国民の反発を招くからだと推測している。偽動画でプロパガンダを仕掛けているロシアにとって、ユーチューブが情報統制の穴になっている。

「武器を置いて降伏せよ」とゼレンスキーが呼びかける偽動画

同年3月16日、先述の懸念が現実のものとなった。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、国民に武器を置いて降伏するように呼びかける偽動画が、何者かによるハッキングによって、ウクライナのニュースチャンネルのサイトで公開された。しかし、この動画のゼレンスキーは、不自然に体の動きが少なく、声が本人よりも低いなど、すぐに偽物と見破られる程度のものだった。

それでも、この偽動画は、ユーチューブやフェイスブックに投稿され、インターネット上に広まり、ロシア発のチャットツールの「テレグラム(Telegram)」やロシア最大級のSNSである「フコンタクテ(VKontakte)」にも広まった。

この事態を受けてゼレンスキーは、自らのインスタグラムの投稿で、速やかにこのディープフェイク動画の内容を否定し、これは子供じみた挑発であると断じた。いつもは後手に回りがちなプラットフォームも、誤解を招く恐れのある操作されたメディアに対するポリシーに違反したとして、直ちに投稿された動画を削除した。