送迎を始めてからぴたりと電話が鳴らなくなった

木崎さんを送迎するようになってから2週間が経過した頃、娘さんはその後の様子を報告しに来てくれた。

「不思議なことに、送迎を始めてからぴたりと電話は鳴らなくなったんですよ」と話す声は、以前よりも明るくなっていた。昔に比べるともちろん頻度は減ったものの、大好きなパチンコが再びできるようになり、木崎さんの心は落ち着きを取り戻したのだろう。

たとえ車がなくなっても、少し工夫をすれば、これまでの生活はある程度できるようになった。パチンコに行くことで、木崎さんはもちろん、娘さんも電話の悪夢から逃れることができて、結果的に二人の気持ちに余裕が生まれたのだ。

「この間母に、『命があるからこそパチンコができるということを身にしみて感じているよ。車を買えなんてわがまま言って悪かったね。毎週連れて来てくれてありがとう』って言われたんです。昔はこんなこと言う人じゃなかったのに」と、娘さんは少し照れくさそうに、そして嬉しそうに語った。

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認知症の症状が出ていても心はまだまだ若い

「以前、お母さんがなぜまたパチンコをやりたがるのか理解できないって仰っていましたが、例えばお母さんの趣味が、韓流ドラマを見ることだったらどうでしょう? きっとやめさせていなかったんじゃないでしょうか」という私の言葉に、娘さんは黙り込んでしまった。パチンコというギャンブル性の高いもの、そこに自分の時間も取られるとなると、やはり誰しもいい印象は持ちにくいのだ。

「お母さんは確かに認知症の症状は少し出ていますが、きっと心はまだまだお若いのだと思います。だってパチンコという生きがいがあって、それを続けることができているのだから。しかもそれに大好きな家族が協力してくれている。だから、本当は自分で車を運転して行きたいけど、文句を言わなくなったのではないでしょうか」と、私は木崎さんの気持ちを推し量りながら伝えた。