日本人であっても「中国に帰れ」と罵声を浴びせられる

アメリカで生活しているとよくあることの一つが、韓国人や中国人に間違われることだ。アメリカでは、容姿から国籍を区別するのは難しいからだ。日本人、韓国人、そして中国人は、文化が近いこともあり、行動をともにすることも多い気がする。例えば、筆者の息子の小学校では、日本人の母親、韓国人の母親、中国人の母親は、教育熱心なこともあってか、仲のよい「ママ友」同士だ。

ヘイトクライムの加害者たちは、日本人や日系人だろうが、韓国人だろうが、中国人に見えれば、「中国に帰れ」と罵声を浴びせた。もっと悪質な例になると、背後から近づいてコンクリートの路上に押し倒したりした。筆者が取材した日本人の女性は、アメリカ人の男性と西海岸の町の中華街を歩いていたが、少しの時間、男性と離れたところを狙ったかのように突然襲われた。女性は重傷を負った。それだけでなく、精神面でのトラウマも抱えることになった。

アジア系を狙った事件は東海岸でも多い。むしろ最近ではニューヨークで発生する事件が多い。地下鉄の駅でアジア系の女性が後ろから線路に突き落とされる事件も起きた。筆者の知人の日本人男性もニューヨークの町なかを歩いていたら、突然白人の女性が近づいてきて、「中国に帰れ」と言われたと話していた。事件は新型コロナウイルスが猛威を振るっていた中、多発した。

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アメリカ社会の分断が加速している

アジア系を狙った犯罪は住民だけでなく宗教施設もターゲットにしてきた。被害を受けたのは、ロサンゼルスの日本人街、リトルトーキョーにある東本願寺ロサンゼルス別院。事件が起きたのは2021年2月の夜。取材で寺を訪れると、寺の責任者の伊東憲昭さんと藤井真之さんのお二人が当時の状況を説明して下さった。

藤井さんは、寺の事務所にいたという。犯行の一部始終は寺が設置していた防犯カメラに記録されていた。黒のキャップに白のTシャツ、黒の短パンという姿の男は、柵をよじのぼって建物に近づき、提灯を下げる木製の台二つに火をつけ、金属製の灯籠2基を倒した。そして、石を投げて建物のガラスを割り、柵を乗り越えて外に出た。

藤井さんは「ビデオで確認すると、5分以内にすべてのことが行われていて、警察からは計画的な犯行ではないかと言われました。この事件がヘイトクライムかどうかはわかりませんが、日本の文化や仏教の象徴である灯籠を倒して、火をつけていることから、そういうものに憎しみの感情がある人ではないかと思います」と話していた。

また、責任者の伊東さんは、アメリカ社会の分断が徐々に進行していることを痛感しているようだった。

「私はここにおよそ45年いますが、こんなことは起きたことがありません。大きな被害ではありませんが、取材が相次いでいます。それは、アメリカの人々が『これはアジア系の人々に対する新たなヘイトクライムだ』と考えているからだと思います。残念なことに私たちは分断された社会に住んでいます。しかし、10年前は今ほどひどくはありませんでした。大事なことはアメリカ人、日本人などという前に、みな人間であると理解することです」