技術だけでなく教育、栄養、分析力も
【村井】では誰が育成プランを作るのか。白羽の矢が当たったのが、ウェストハム・ユナイテッドの監督などイングランドで37年の指導歴を持つテリー・ウェストリーさんでした。
テリーさんが作った「EトリプルP」は、フットボールの技術だけでなく、教育、栄養、分析力などのスタンダードを作り、それをベースに各クラブが独自の育成に取り組むプログラムでした。
――そのテリーさんを村井さんが日本に招くわけですね。
【村井】ロシア大会が終わった後、ロンドンに会いに行きました。2018年の9月だったと思います。郊外のカフェでお会いして「あなたがイングランドを変えたプランを日本でやってほしい」とお願いしました。テリーさんは2年がかりで取り組んでいたウェストハムのトレーニング施設の改修事業を終えたところだったこともあり、Jリーグのビジョンや今度のアイデアを説明したところ、日本に来る決断をしてくれました。
秋田には秋田の、沖縄には沖縄のサッカーがあっていい
――テリーさんは日本に来て、何から始めましたか。
【村井】イングランドでやったプログラムをそのまま日本に持ち込むのかと思ったら、それはやらないんですね。テリーさん自身が日本に飛び込んで、全身どっぷり日本に浸かって、日本の文化を理解しようとされました。来て早々に全国の20クラブくらいを回り、その地域の風土や文化を学ぼうとしていました。フットボールというのはそういった地域の風土に根ざして発展するものだという考え方なのです。
例えば1年のうちの3カ月が雪に閉ざされる秋田県では、冬の間、耐えに耐えて夏になると大曲の花火や竿燈まつりで一気に爆発させる。そういうサッカーをすれば、おじいちゃん、おばあちゃんも「これが秋田のサッカーだ!」と感じてくれるはずです。ですから、秋田には秋田の沖縄には沖縄のサッカーがあっていい。それを育成や戦術に落とし込むために、まずは各クラブが自分たちの「フィロソフィ(哲学)」をしっかり持ちなさい、というのがテリーさんの教えでした。