同じく松竹が興行主の浅草公会堂公演と比較しても歌舞伎座の入りはさらに悪い。浅草歌舞伎は毎年正月にテレビなどでも人気の若手歌舞伎俳優を中心に演目が組まれる。また、観劇料も歌舞伎座よりかなり安い設定で、歌舞伎観劇初心者、若い客層を意識した公演だ。高齢者が多い歌舞伎ファンに歌舞伎座は敬遠されているのだろうか。

歌舞伎ファンにすら見放される恐れ

歌舞伎座で歌舞伎を観たいという歌舞伎ファンは多い。歌舞伎座には歌舞伎の殿堂としての格式・雰囲気がある。

とくに人気なのが特等席と言える1階桟敷席(今月:17000円)と、料金が安い3階A席・B席(同:5500円、3500円)だ。桟敷席は一般客席の両側にあり、一段高くなった半個室スタイルの20区画・40席で、注文した弁当も届けられる人気の席で、予約が困難なことが多い。

筆者撮影
歌舞伎座の客席。1等の2階席は特に空席が目立った=2023年1月17日2部公演

3階席は歌舞伎の常連が頻繁に通うこともあり、こちらも予約がしづらい。1等席(同:16000円)は客席数が一番多く、1等の価値があるか疑問の席もあり、これが埋まらないのは理解できるが、今月の歌舞伎座は桟敷席も3階席もガラガラの日がかなりあり、相当深刻な状況だ。1月14日から2月興行の一般予約がはじまったが、やはり売れていない。

歌舞伎座の格式ゆえ、松竹は歌舞伎役者以外が出演する革新的な演目は歌舞伎座以外で興行を行ってきた。伝統的な歌舞伎に歌舞伎ファンが足を運ばなくなっているのではないか。さらに言えば、伝統的な歌舞伎演目に重きをおくあまり、若い世代の新しい歌舞伎ファンの発掘に失敗している印象を受ける。

なぜこれほど不人気なのか

歌舞伎俳優は300名ほどいる。歌舞伎座ではそのなかの幹部俳優、中堅、若手俳優等をまんべんなく配役できる演目で興行が行われる。歌舞伎の殿堂だから、若手人気俳優の「ワンマンショー」的な演目は組まれず、古典的な演目、慣習に沿った配役になりやすい。これが新たな観劇層の獲得を拒んでいるように思う。

例えば、今月の歌舞伎座では歌舞伎役者の中で、今もっとも観客を集められると言われている市川猿之助が出演しているし、女形で人気の中村七之助、中性的美貌で注目の市川染五郎などが出演しているが、それほど集客に結びついていない。数多くの出演者の一人という感じで、目立っていないのだ。配役でも序列が重んじられるし、芸達者の幹部俳優=集客力のある人気役者とも限らない。

実は、コロナ禍の前の、令和の時代になったあたりから歌舞伎座の不入りは話題になっていた。すでに高齢者を中心とした観客層が減ってきていた中でコロナ禍の影響で、より足が遠のいている可能性がある。今月の歌舞伎座公演の第2部を観劇したが、観客は70歳以上と思われる高齢者が多くを占めた。そうした観客層が減ってきているのだろう。

観劇料も高くなったと感じる。今月の観劇料は1等で16000円だ。コロナ禍前の2019年12月の2部興行の19000円と比べてみよう。このとき昼夜観ると、19000円×2で38000円だ。現在3部を観ると16000円×3で48000円だ。歌舞伎座の公演は各部で演目が違うので、同じ月で複数回見る人にとって影響は大きい。

高齢者を中心とした従来の歌舞伎観劇層がコロナ禍もあり激減しているなかで、新たな観客を取り込めていないのが歌舞伎座ガラガラの理由だろう。2部制から3部制になったことで、興行回数・販売客席数がかなり増えているので余計空席が目立つということはあるだろうが、芝居小屋としての大きさも、興行回数も過剰になっているということだ。歌伎舞座はかなり大規模な劇場で総客席数は1800席ほどある(3階席後方の幕見席を除く)。この半分くらいでよいのが現状だ。

歌舞伎座はガラガラだが、新橋演舞場は大盛況

しかし、新橋演舞場で行われた公演は違った。むしろ筆者は、人気を失いつつある歌舞伎の可能性を感じた。

昨年末に市川海老蔵改め市川團十郎白猿を襲名した新團十郎とジャニーズ・Snow Manの宮舘涼太が主演する「SANEMORI」だ。古典歌舞伎の名作『源平布引滝』に現代の感覚を取り入れた公演で、歌舞伎界の大名跡團十郎と人気ジャニーズグループメンバーの異色コラボだ。

筆者が観劇した際は拍手喝さいの大盛り上がりで、通常歌舞伎にはないカーテンコールが繰り返され、客席は最後にはスタンディングオベーションだった。見たところ、客の9割は女性でそのうちの8割は30歳代以下と思われる若い人たちだった。シニアばかりだった歌舞伎座公演と客層が決定的に異なっていた。

昨年11月、12月に歌舞伎座で行われた團十郎襲名記念公演は昼夜2部制だったが、昼の部では最後まで多くの日で客席をすべて埋めることはできなかった。当初3カ月の予定だった興行を2カ月とした状況でだ。これから考えると新橋演舞場公演の人気ぶりは團十郎より宮舘涼太目当てで集まった観客たちによるところが大きいと言えるだろう。

しかし、筆者は、團十郎×宮舘涼太の異色の共演に、歌舞伎の未来を見る。