娘が大学で学ぶことに賛成する・しない分野は?
娘の大学進学に際して、親が賛成しやすい分野、反対しやすい分野はあるのでしょうか。(これまで紹介してきたように)向いていると思う分野、就職が良いと考えられる分野がある以上、賛成しやすい分野・反対しやすい分野があることは容易に想像できます。
子どもの進路選択に親が影響を与える可能性は、以前から指摘をされていました。子どもが娘の場合に、親が特に賛成・反対しやすい分野があるとすれば、それを理由と共に明らかにすることは、私たちの研究にとってもきわめて重要だと考えました。
数学・物理学を選択するにあたり男女差がある要因として、高校時の本人のジェンダーステレオタイプが与える影響が注目されています。本稿では、親のジェンダー意識や平等度、理系分野に対するイメージ分析を行った研究を紹介します。
大卒以上の娘がいる親1236名(男性618名、女性618名)を対象に、「一般的に考えて、女の子が次に挙げる専門分野への大学進学を希望したら、賛成しますか?」という質問をしました。回答は、「すごく賛成する」「どちらかといえば賛成する」「どちらともいえない」「どちらかといえば賛成しない」「まったく賛成しない」の5段階から選んでもらっています。母親と父親をペアで調査したのではなく、娘を持つ男性と女性のそれぞれに、別々に尋ねています。
この調査に回答している時点ですでに言えることは、大卒の娘を持つ、つまり娘を大学に通わせた経験のある親で、一定程度の経済力がある人たちだ、ということです。また、質問文にある「専門分野」は、表に示した16分野です。結果は次の通りでした。(図表1)
理系分野でも「女性向き」だと思われている薬学
「薬学」が1番にきた結果を見て、「やはりそうか」との思いを持ちます。ほかの調査では、学問分野や就職へのジェンダーイメージにおいても、女性で「薬学」は上位だったからです。(図表2)
大学の薬学部は4年制ではなく6年制で、長く勉強しなくてはいけません。資格志向の強さをあらためて感じます。現状では女性が企業で働き続けることは難しいという、親御さんという立場での懸念の表れでもあるでしょう。
薬学の基本は化学であり、論理的思考を重視する(物理学的・数学的な)勉強が必要とされます。日本ではこうした勉強は男性寄りというイメージが強いにもかかわらず、薬学には女性寄りのイメージが強く見られます。つまり学問のイメージは、学問そのものが持つ性質からではなく、社会的な環境に影響されて作られている可能性が示唆されます。
現に薬学を学ぶ女性は多いため、おそらく親御さんにとっては、すでにロールモデルがいるのだと予想されます。そのことにより、男性イメージが一層緩和されるというスパイラルになっているのかもしれません。薬学が、歴史的にも制度的にも女性にフィットし続けてきたというのは、日本に特徴的な興味深い状況です。