人気分野になりつつある「情報科学」

一方で、薬学とは違う意味で私たちにとって非常にインパクトが大きかったのは、2番目に「情報科学」が来たことです。この結果にはとにかく驚き、今後の女性の理工系進学の大きな変化の兆しを感じました。

情報科学に携わる女性のイメージ
写真=iStock.com/Tippapatt
※写真はイメージです

例えば東京大学では、情報理工学・情報科学は、数学・物理学とほぼ同程度で女性率の低い分野だからです。調査対象の親は、ビッグデータやAIの活用が社会において極めて重要な分野になってきており、この分野の需要が大きいことをよく分かって支持している、ということでしょう。情報科学は人材が不足しており、文系の大学を卒業した人を対象にしたリカレント教育や、大学によっては情報の講義の必修化など、大学側の努力も進んでいます。

小学校教育ではプログラミングが必修化し、2021年9月にはデジタル庁も発足しました。政府はAIや量子コンピューターと呼ばれる分野の人材育成に力を入れています。今後ますます、この分野には人材が必要であり、女子生徒の進学は心待ちにされているのです。

親の後押しを受けて、情報科学に女性が進学するようになると、数学・物理学分野や理工系の進学全体にも、大きな影響があるのではないかと期待しています。アメリカでも、情報科学の女性学生率は20%と苦戦していますが、大学と企業が力を合わせて女子生徒の勧誘や女性学生の啓発事業を行っています。また、情報科学は、薬学や物理学などと比べると広い分野を指す言葉であり、大学の学部によっては、デザインや人文社会科学の学問領域も入ってきます。

例えば、東大の私の研究室では、学際情報学府・文化人間情報学コースから学生を受け入れています。所属先の文言に情報が2つ入っていますが、これは人文社会科学における情報を指しています。

女性が少ない分野でも「娘が希望すれば賛成する」

3番目以降は「医学」「生物学」「歯学」と続きます。この調査では、医学や歯学で具体的に学費がどの程度かかるかという話題までは、説明していません。他分野に比べて学費がかかる学部ですが、資格を得て長く働けることもあり、子どもが希望すれば応援したい、という親の気持ちが表れているようにも感じます。

「数学」「物理学」は真ん中あたりに位置し、その後「電気通信技術」「建築工学」「獣医学」と続きます。下位のほうにある「畜産学」や「土木工学」は、女性には向いていない・重労働で大変だというイメージがあるのではないかと、想像されます。

最下位には「原子力工学」が来ました。原子力については、人体への影響が心配という自由記述もありました。私は先述したように、素粒子実験のために加速器という装置を使った経験があり、そのために放射線取扱の講習を受けました。放射線は厳重に管理されており学生の健康に影響が出ることは想像しにくいですが、福島原発事故の記憶もあって、このようなネガティブなイメージが続いてきたと思われます。

そうした困難下にあるコミュニティに直結する分野に進学させるのは、親としては賛成できない、という書き込みもありました。ただすべての分野で、調査対象者全体の40%以上が、「一般的に考えて、女の子」が志望すれば「すごく賛成する」「どちらかといえば賛成する」と回答しています。つまり全般的には、娘本人が希望するのであれば、その選択に賛成する親が多いということが推測できたのは、大きな収穫でした。