クラというのは、貝の首飾りと腕輪を交換品として、島々を取引して回るシステムのことです。

ジェル氏は、交易の際に使われるカヌーに施された装飾が、交易相手の心理に強く影響することを指摘しました。

カヌーの装飾がエージェントの役割を果たす(※写真はイメージです)

その装飾が、相手の気持ちをリラックスさせたり、逆に、畏怖の気持ちを与えることで、交渉を有利にしていると分析したのです。

カヌーは、海上を移動するための単なる道具ではなく、使う人間の気持ちを代弁するとともに、交渉において「エージェント」のような役割を果たしているというのです。

つまり、マテリアルカルチャーとは、「マテリアル(物質)」を単なる物質と考えるのではなく、それを使う人やその周りの社会に対してモノが及ぼす影響を考えているのです。

私はこの考え方にたいへん興味を持ち、いろいろな文献を調べ、専門家にも話を聞きました。以来、私の秘境取材の方向性は、このマテリアルカルチャーによって決まったといっても過言ではありません。