秘境取材はモノから始めよ
秘境に暮らす人々は、ほぼ例外なく、「マテリアルカルチャー」を心の拠り所にしています。
私は秘境で取材する際、必ず人々が愛用し、自慢にしているモノを丁寧に撮影し、由来をしっかり聞くことから始めるようにしています。
モノ(生活用具・道具)は、言語を超える共通語です。
言葉が通じなくても、モノを指差したり、手に持たせてもらったり、使い方を尋ねたりするときの、お互いのアンバーバルな(言語によらない)表情や仕草が、深いコミュニケーションにつながります。
また、秘境に住む人々が使用する生活用具には、民族の知恵や工夫の歴史が刻みこまれています。
そうした生活用具を理解することは、彼らのアイデンティティーを認めることに直結します。
生活の根幹を支えている道具を、敬意をもって扱うことからコミュニケーションを始めることで、秘境の人々から好感を持たれやすくなります。
それからのち、ようやく取材をスタートすることができます。
好感を持って初めて外来者に心を開き、本音を話してくれるのです。
お気に入りのグッズやアイテムを、「センスいいね、それ。どこで手に入れたの?」「素敵な服ね。とてもあなたに似合うわ」と褒められれば、嬉しいに決まっています。
言葉でのコミュニケーションが難しくても、モノが通訳(=エージェント)になってくれる、
これが、マテリアルカルチャーの真髄なのです。