マーケティングの現実を見るフレーム(視点)を切り替えること、これがマーケティング・リフレーミングである。リフレーミングという言葉、もともとは臨床心理学の言葉であるが、それをマーケティング世界に転用した。リフレーミングを導く3つの要素が指摘されている。
第一の要素は、市場(そしてそれに係わる資源)の再定義(読み替え)である。書籍やチャネルの性格、都市観光バスの性格を読み替えた宝島社やはとバスの創意は、わかりやすいだろう。
第二に、市場との共創、つまり「市場とともに考え、価値を創出する」要素だ。市場との共創により、市場の再定義の効果が実質的につくりだされる。あげられている例は洗面台。生活者が溜め水洗いから流し水洗いへと洗い方を変えたのを見て、メーカーは水がはね跳ばない大きい洗面ボウルを提案した。大きいボウルの洗面台を使い始めた生活者は、その大きいボウルで小物の洗濯をし髪を洗い始めた。そうした生活者の新しい工夫を見て、洗面台各社は髪の洗える洗面台を開発した。古いケースだが、わかりやすい市場共創の例である。
第三に、市場にはそもそも、流れを反転させるパラドキシカルなメカニズムが潜在している。これが、リフレーミングを支える第三の要素になる。宝島社のケースでいうと、書店経営の苦境により、各書店は新しい立場を受け入れる土壌にあった。〈はとバス〉の場合には、都民の間で、はとバス見直し、地元東京再発見のニーズが徐々に生まれていた。市場の流れは単純ではない。時間の流れの中で、自ら流れを反転させる契機を常に潜在させている。
市場の、流れの反転のきっかけを探り見定め、市場を再定義し、そして市場との共創を図る。「絵に描いた餅だ」という声も聞こえてきそうだが、行き詰まりを感じる事業では、避けては通れない構図ではないだろうか。