例えば、前述した西武鉄道の飯能駅からみなとみらい線の元町・中華街駅への交通運賃で考えてみたい。

電車を利用すると、西武線から東京メトロ副都心線、東急東横線の直通運転を経て、みなとみらい線に乗り入れる。このルートでは、西武、東京メトロ、東急、みなとみらいの4社線を乗り換えなしで利用できるが、運賃は480円+250円+280円+220円の計1230円となる。

東京にはパリやソウルのような異なる事業者の路線を乗り継いでも高額にならないような制度はない。直通運転でバリアフリーは格段に進んだが、運賃は各社に支払わなければならず、運賃のバリアはそのままだ。

東京メトロと都営地下鉄はいまもバラバラ

乗継割引制度は一部の区間で適用されているが、割引率が高いのは東京メトロと都営地下鉄を利用した場合の70円割引(普通運賃の場合の「連絡特殊割引普通旅客運賃」)だ。

両社とも都内の地下鉄同士で、利用者から統合すべしという意見がことさら強い。そのため比較的大きな乗継割引額となっている。経営統合などを求める声は大きく、猪瀬直樹都知事時代、東京オリンピックを控えた頃、議論は盛んになった。

2017年6月29日、東京メトロの山村明義社長が就任会見で、「両社の乗り継ぎ時には70円の運賃割引をしているが、どちらかだけを利用した場合に比べて割高になる。将来は乗り継いでもどちらか1社だけの利用とみなし、初乗りの徴収を一度だけにするしくみを検討している」という趣旨の発言をしたが、現在まで割引額の拡大は行われていない。オリンピックが無観客開催となり、「喉元過ぎれば……」の状態ということだろうか。

そもそも日本ではJR、私鉄、地下鉄を当たり前のように区別する発想があるが、JRも民営化したし、地下鉄も多くが地下を走っているというだけで、この区分に意味があるのだろうか。

写真=iStock.com/npp_studio
※写真はイメージです

しかも、小田急バス、西武バス、京急バスなど、鉄道運営会社のグループ会社が経営するバス会社も数多いが、これらのバスと鉄道を乗り継いでも運賃は別々だ(一部地方都市では割引制度がある)。鉄道の出発駅、到着駅でバス利用も必要だと交通運賃はさらに高額になるのが日本の実情だ。

日本は鉄道会社ごとに運賃を支払うため割高に…

問題の根本は、国策として交通網の社会資本をどのように位置づけるかという点にある。

例えば、高速道路などの一部の有料道路を除き、道路網は全国的に整備され、誰でも無料で利用できる。郵便はハガキや封筒などは全国一律料金であり、遠隔地・僻地などコストがかかる郵送でも都市部の近場の郵送でも一律料金だ。